藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)
1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
【1】ナショナリズム 日本とは何か/「世替わり」の日本 姜尚中氏との対話①
日本のナショナリズムを考える旅を始めたい。
ここで言うナショナリズムとは、排他的なものではない。定義が難しい言葉だが、「国家」や「国民」としてのまとまりの追求、ぐらいに考えていただければありがたい。
そんな厄介なものにあえて向き合おうと思ったのは、2016年8月の天皇陛下の「おことば」に始まり、今年実現する、存命中の天皇からの皇位継承という出来事がきっかけだ。
「国民」にとって、二つの意味で重いことだと思った。
まず、明治に日本が天皇を中心にひとまとまりの近代国家になり、構成員としての「国民」が作られてから、初めての生前譲位であること。もう一つは、その生前譲位をする天皇が戦後の憲法で「国民統合の象徴」とされていることだ。
高齢となった天皇陛下が、「象徴の務めを果たしていくことが難しくなるのでは」(おことば)と述べて譲位する。そこに「象徴」されている「国民」とは何なのだろう。そう問いかけられた気がした。
日本の近現代史で初めてとなる生前譲位を、ただ眺めるだけでなく、「国民」とは何か、その前提となる近代国家としての日本とは何かを見つめ直す機会にできないか。そこから、皇位とともに継がれる日本が見えてくるのではないか。そう考えた。
とはいえ、自転車操業で目の前のネタばかり追ってきた一介の記者には荷が重い。旅の手ほどきを先達にお願いすることにした。姜尚中・東大名誉教授(68)だ。熊本生まれの在日コリアン2世として、日本を内から、そして外から考え続けてきた。