メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

無料

拡大じっくりと煮込まれた豚の角煮。肉だけではなく、卵も中まで味がしみている(写真はいずれも筆者撮影)

 降り続ける霧雨が心地よく感じられる春、町田駅周辺の喧騒を抜け、閑静な住宅街を歩いていた。民家に挟まれた細道の奥、上品なたたずまいの一戸建てを訪ねると、「いらっしゃい」と、飛び切りの笑顔でペン・セタリンさんが出迎えてくれた。家の中にはセタリンさんの故郷であるカンボジアならではの工芸品や小物が並び、自分が今日本にいることを思わず忘れてしまいそうになる。この国に何度も通わせてもらっている私にとって、じんわりと懐かしささえこみ上げてくる。

拡大リビングにあった素敵な椅子で。色使いの鮮やかさが、カンボジアの街中にあるおしゃれなカフェを思わせる

拡大神話に登場する、猿族のハヌマーン(右二つ)と魔王ラヴァナ(左)。世界遺産にも登録されているアンコール・ワットの壁画にも描かれている

 キッチンではすでに、鍋がコトコトと小気味よい音を響かせていた。火加減をこまめに見ながら、「カンボジアの家庭にひとつはあるはずよ」という石臼で、タマリンドや干魚を丁寧につぶしていく。あくまでも手作りにこだわるのは、「新鮮なものを食べて、長生きしたいからよ」とセタリンさんはまた楽しげに笑った。

拡大一つ一つの食材に愛情を込めるように、石臼で材料をこしらえていくセタリンさん

拡大かちかちに乾燥した干魚も、難なく砕きながら石臼の調味料に加えていく


筆者

安田菜津紀

安田菜津紀(やすだ・なつき) フォトジャーナリスト

1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

安田菜津紀の記事

もっと見る