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白人右翼テロの広がり示すクライストチャーチ事件

六辻彰二 国際政治学者

白人右翼テロの復活を促したもの

 「非白人から白人世界を守ること」を大義とする白人右翼テロは、欧米諸国で増加しつつある。例えば、アメリカの調査機関インベスティゲイティブ・ファンドによると、2008年から2016年までの間にアメリカで発生した未遂を含むテロ事件のうち、イスラム過激派によるものが63件だったのに対して、白人右翼によるものは115件だった。

 白人右翼テロの起源は南北戦争(1861~65)の時期にさかのぼる。「奴隷解放の父」エイブラハム・リンカーン大統領が、奴隷制廃止に反対する南部出身者に暗殺されたことは、その象徴だ。その後、公民権運動などによって人種差別的な言動は段階的に封じ込められたものの、アメリカに限らず欧米諸国では石油危機後に経済が停滞した1980年代から移民排斥を訴える声が少しずつ広がり始めた。

 地下水脈のように欧米諸国で広がっていた白人至上主義が噴出するきっかけになったのが、2001年同時多発テロ事件と対テロ戦争の始まりだった。イスラム過激派のテロは欧米諸国で「イスラモフォビア(イスラム嫌い)」と呼ばれる風潮を広げ、そこに発生したリーマンショック(2008)後の経済停滞が白人右翼テロを加熱させた。2011年、ノルウェーで白人至上主義者アンネシュ・ブレイビクが移民受け入れを進める政府・与党関係者を銃撃し、77人を殺害した事件は、こうした時代背景のもとで発生した。

 その後、シリア難民の急増やパリ同時多発テロ(2015)などを受け、移民・難民に対する排斥運動はこれまでになく活発化した。そのうえ、人種差別的な言動が目立つトランプ大統領の就任は、白人至上主義者が「社会の傍流ではない」という意識を強め、その行動をエスカレートしやすい環境を生んだ。実際、タラント容疑者はトランプ大統領を「白人アイデンティティのシンボル」と呼んでいる。

注目されにくい「多数派のテロ」

 このような背景のもと、白人右翼テロはアメリカ以外にも広がってきたが、各国での取り締まりは、これまで必ずしも厳しくなかった。

 先述のインベスティゲイティブ・ファンドの調査によると、イスラム過激派による事件の76パーセントは未然に防止されたのに対して、白人右翼テロの事件のうち防止されたのは35パーセントにとどまった。ここからは、 ・・・ログインして読む
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筆者

六辻彰二

六辻彰二(むつじ・しょうじ) 国際政治学者

1972年生まれ。博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。アフリカを中心に世界情勢を幅広く研究。著書に『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、共著に『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)など。その他、論文多数。Yahoo! ニュース「個人」オーサー、NEWSWEEK日本版コラムニスト。

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