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小沢一郎「実は財源はいくらでもあるんだ」

(6)政治主導の予算編成を目指した「国家戦略局」をめぐるすれ違いの始まり

佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

安倍が「悪夢」と呼んだ「コンクリートから人へ」

 3年余りの民主党政権の経験とは日本政治にとって何だったのだろうか。最近の出来事から、自民党政権と比較してわかりやすい事例をひとつひいてみよう。

「コンクリートから人というとんでもない内閣があった。安倍総理大臣は悪夢のようだと言ったが、まさにそのとおりだ」

 安倍内閣の国土交通副大臣である塚田一郎は、福岡県知事選の集会でこんな一連の発言をして4月5日に副大臣を辞任した。

拡大「安倍麻生道路」と言われる下関北九州道路のルートに想定される関門海峡。手前は北九州市、対岸が山口県下関市。中央奥には関門橋が見える=2019年4月1日

 俗に「安倍麻生道路」と言われる下関北九州道路について、首相の安倍晋三と副首相の麻生太郎の意思を忖度して、国直轄事業に格上げさせたと「情実予算」であることを堂々としゃべってしまった。塚田は、忖度した情実予算であることを後に否定したが、まさに国民の税金の使い道が有力者の意向によって決まってしまう自民党の公共事業予算の有り様をまざまざと国民に印象づけた。

 民主党政権の予算案が「コンクリートから人へ」の流れだとしたら、自民党政権のそれはまったく反対の「人からコンクリートへ」の流れであると言える。

 安倍が「悪夢のような民主党政権」と表現した民主党の政府予算への流れ、取り組みはどのようなものだっただろうか。

生活保護の母子加算の復活

 2009年9月、民主党が総選挙に大勝し鳩山由紀夫内閣が成立する文字通りの前夜、私は民主党議員で厚生労働大臣政務官に就任する山井和則から電話を受けた。

「記事を読みました。生活保護の母子加算は民主党政権で復活させますから」

 この年の5月、私は4月に打ち切られていた生活保護の母子加算措置について北海道小樽市の母子家庭数軒を取材。「ママ、私高校行けないんでしょ」「修学旅行、行かなくてもいい」という経済面では珍しい見出しをつけて記事にしていた。

 取材した母親の一人は高血圧や自律神経失調症などの病気を抱えて生活費を切り詰め、食事はいつも夜だけ、おふろは浴槽に湯を半分だけにして週に2度という生活をしていた。小学校に入学したばかりの娘の机をリサイクルショップで買ったが、娘は高校には行けないものと小さい心で考えていた。

 山井は京都大学在学中に母子家庭を手助けするボランティア活動を経験しており、打ち切られた母子加算については心を痛めていた。

 この生活保護母子加算は現在の第2次安倍政権になって再び削減の対象となっているが、民主党政権時代には山井や長妻昭、川内博史らによって政権発足後すぐに復活した。記事を書いた私は、国民のための予算ということを真っ先に実感させてもらって大変心強い思いをしたことを覚えているが、これが、安倍や塚田によって「悪夢」とされた「コンクリートから人へ」という民主党の予算政策の第一号だった。

 そして、この「コンクリートから人へ」という予算案の太い流れを大本で形作っていたのは民主党幹事長の小沢一郎だった。


筆者

佐藤章

佐藤章(さとう・あきら) ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

ジャーナリスト学校主任研究員を最後に朝日新聞社を退職。朝日新聞社では、東京・大阪経済部、AERA編集部、週刊朝日編集部など。退職後、慶應義塾大学非常勤講師(ジャーナリズム専攻)、五月書房新社取締役・編集委員会委員長。最近著に『職業政治家 小沢一郎』(朝日新聞出版)。その他の著書に『ドキュメント金融破綻』(岩波書店)、『関西国際空港』(中公新書)、『ドストエフスキーの黙示録』(朝日新聞社)など多数。共著に『新聞と戦争』(朝日新聞社)、『圧倒的! リベラリズム宣言』(五月書房新社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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