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小沢一郎「実は財源はいくらでもあるんだ」

(6)政治主導の予算編成を目指した「国家戦略局」をめぐるすれ違いの始まり

佐藤章 ジャーナリスト、慶應義塾大学非常勤講師、五月書房新社編集委員会委員長

小沢がバッサリ削った土地改良予算

 民主党が2009年8月の総選挙に大勝して政権交代を成し遂げ、曲がりなりにも初めて取り組んだ政府予算が2010年度当初予算案だった。その予算案では、それまでの自民党予算案を知っている人間には大変驚くべき変化があった。農水省の予算である土地改良予算が前年度に比べてわずか36.9%の2129億円に減額されたのだ。

 この土地改良予算はそのまま農家の水田整備に直結しているために、農家の票を動員しやすい。このため、土地改良の国の補助金は長年自民党候補者を育てるカネと言われており、必要性に疑問符がつけられながらも自民党政権下では削減の対象にはなっていなかった。

 小沢はこの土地改良予算をバッサリ削り、代わりに農産物自由化を視野に入れて、新しく導入した農家所得補償制度の財源に回すことにしていた。

「私は農産物の自由化は賛成なんだ。だけど、ノンルールでただ自由化だけさせてしまうと農家はみんな潰れてしまう。だから、きちんと自給態勢を作らないといけないというのは、イギリスの産業革命の歴史からわかっている。イギリスは自給率が相当下がってしまった。だから、自給態勢を作るためにはやっぱり最低限の再生産システムを作らなければだめなんだ。土地改良予算をバッサリやったのはただやったわけではない。財務省を説得するためなんだ。こういうことは闇雲に言ったって通らない。きちんとしたビジョンを持ってきちんとした論理を組み立てれば、財務省は賢明だからちゃんとやるんだよ」

 予算案編成をめぐって、政治の側は財務省に対してどう向き合うべきか。小沢のこの言葉は実に含蓄に富んだものだ。

 土地改良はすでに歴史的使命を終え、自民党候補の農家集票システムとして残っていた。その反面、農産物の自由化はいずれ日程に上ってこざるをえず、その時のための農家支援策が必要とされていた。

 農業政策をめぐるこの大きい二つの柱を考え、大所を論理立てて財務省に働きかける。

 この機能こそ、真に政治サイドに求められる働きだろう。首相と副首相の地盤同士を結びつける道路の予算をどうするというような次元をはるかに超えた、国民経済を眼目に据えた本来的な政治主導の予算編成と言える。

 しかし、政治主導の予算編成と一言で言っても簡単なものではなく、自民党政治を批判して終わりというものではない。小沢自身、この知識と行動力を得るには長年の経験と絶えざる学習が必要だった、と回顧している。

 民主党政権時代、小沢のような知識と行動力を持った政権幹部は何人いただろうか。私はここに率直に記すが、恐らく一人もいなかっただろう。

子ども手当「本当は3万円て言ったんだ」

 民主党が初めて取り組んだ予算案の中で、毀誉褒貶の大きい論議を呼んだのは、土地改良や戸別所得補償予算にも増して子ども手当だろう。

 15歳以下の子どもを扶養する保護者などに対して月額1万3000円が支給された。実は当初、月額2万6000円を支給すると民主党のマニフェストで謳っていたが、財源不足を批判されて半分に減額した経緯がある。

 この2万6000円という額について、報道などでは小沢の一言で決まったというように伝えられている。

拡大民主党の小沢一郎幹事長は2009年12月16日、首相官邸に鳩山由紀夫首相を訪ね、来年度予算と税制に関する要望書を渡した。ガソリン税などの暫定税率分の維持と子ども手当への所得制限導入は総選挙で掲げた党のマニフェストの根幹部分を変更する内容だが、鳩山内閣は予算編成にそのまま反映した

 しかし、インタビューに答えた小沢の言葉は驚くべきものだった。

「本当は、私は3万円て言ったんだ」

 小沢の説明によれば、当時フランスは円換算で大体3万円支給し、このおかげで出生率が回復したという。

「財源は実はいくらでもあるんだ。財源がないとマスコミが言うのはいいけど、政治家が言うのはだめなんだ。いま自民党政権はどんどん使っているだろう。お金は天下の回りものという面がある。だから、お金は特別会計に入ってしまって相当眠っているだろう。私がそういうことを知っているものだから、財務省の役人は私の前ではお金がありませんとか絶対に言わない。いま日銀の実質的な国債買い入れをやっているが、政府というのはそういうことまでできるんだ」

 特別会計は、元財務相の故塩川正十郎が「母屋でお粥をすすりながら、離れではすき焼きを食っている」とわかりやすく皮肉ったことで有名になった。つまり、各省庁が表向きぶんどり合戦を演じている一般会計予算は「お粥」をすするほどの窮迫状態にあるが、官僚の隠しポケットと言われる特別会計ではいつも「すき焼き」が振る舞われているというブラックジョークだ。そして、特別会計全体の実態はよくわからない。

 日銀の国債買い入れというのは、簡単に言えば政府の借金の証文を日銀がそのまま引き受けるもので、健全財政を眼目にした財政法の明確な違反事項だ。しかし、日銀は金融緩和を名目に国債市場から少しでも流通したものを買い上げているから何とか同法違反を免れている状態だ。

 特別会計と日銀の国債買い入れに共通するのは、お金が大量に渦巻いている世界ではあるが、政治の手がなかなか届きにくいという側面だ。

 しかし、小沢はこの側面のことも理解している。財務省の官僚が小沢の前では沈黙を守るのはこのためだ。

 このことを十分に理解している小沢が、「子ども手当3万円」を打ち出していた。

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筆者

佐藤章

佐藤章(さとう・あきら) ジャーナリスト、慶應義塾大学非常勤講師、五月書房新社編集委員会委員長

ジャーナリスト学校主任研究員を最後に朝日新聞社を退職。朝日新聞社では、東京・大阪経済部、AERA編集部、週刊朝日編集部など。退職後、慶應義塾大学非常勤講師(ジャーナリズム専攻)、五月書房新社取締役・編集委員会委員長。著書に『ドキュメント金融破綻』(岩波書店)、『関西国際空港』(中公新書)、『ドストエフスキーの黙示録』(朝日新聞社)など多数。共著に『新聞と戦争』(朝日新聞社)、『圧倒的! リベラリズム宣言』(五月書房新社)など。

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