藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)
1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
【3】ナショナリズム 日本とは何か/吉田松陰が遺したもの①
令和を迎えた日本。天皇を組み込んだ近代国家が明治に興ってから、元号と一対の「世替わり」は四度目になる。近代国家が「国民」をつくり、まとまりを追い求める「ナショナリズム」について考えるこの連載のために、真っ先に取り組んだ取材が思想家・吉田松陰だった。
東アジアに欧米列強が押し寄せた幕末、守るべき日本とは何かを突き詰め、明治維新を担うことになる門下生に説いた。その世界観と影響をぜひ押さえておきたかった。
城跡に紅白の梅がほころぶ頃、松陰の故郷・山口県萩市を訪ねた。遺品や著作を蔵する松陰神社の至誠館で、島元貴・上席学芸員(37)に話を聞く。神職も務める島元さんは白衣に袴を着け、書庫から文献を取り出しては質問に答えてくれた。
尊王攘夷への傾倒から幕府の老中暗殺を企て、1859年に29歳で斬首――。短くも激しい人生で松陰が残した厖大な文章の中で、私が気になっていたものがあった。領土拡張論だ。米国への密航未遂を幕府にとがめられ、萩で蟄居していた24歳で著した「幽囚録」に、こうある。