藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)
1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
【6】ナショナリズム 日本とは何か/吉田松陰が遺したもの④
東アジアに欧米列強が押し寄せた幕末、思想家・吉田松陰は守るべき日本とは何かを突き詰め、領土拡張論から開国通商論に至るまで、めまぐるしく思想を巡らせた。そんな松陰は、明治維新を担うことになる志士らに人としてのあり方から説く教育者でもあった。故郷の山口県萩市では今も、「先生」と呼ばれている。
萩を訪れた1月末、松陰が祀られる松陰神社から松本川を渡り、市街へ向かった。
高杉晋作や木戸孝允の生誕地がある旧城下町の手前に、市立明倫小学校がある。萩藩兵学師範を務めた松陰が教えた藩校明倫館にゆかりがあり、授業前に各教室で毎朝、子どもたちが松陰の遺訓を唱えている。
明倫小のホールには松陰の肖像画ととともに、学年ごとの「松陰先生のことば 朗唱文」の書が並んでいた。学期ごとに「ことば」は変わり、6年間で18文になる。1年生の「親思うこころにまさる親ごころ」から、6年生の「冊子を披繙すれば 嘉言林の如く躍々として人に迫る」まで、だんだんと難しくなっていく。
今のような形での「朗唱教育」に取り組み始めたのは1982年。各学期の朗唱文は小学校の「道徳」の学習指導要領にも対応しているという。「ことば」の意味と、自分の日常にどう生かすかを考えさせている。
放課後に2年生の教室をのぞくと、担任の若い女性が明日の準備をしていた。「子どもたちは意味を忘れてしまうので、もめ事をした時などに、あの『ことば』どういう意味だっけ? と思い出させます」と話してくれた。
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