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異邦人カルロス・ゴーンの癒やされない孤独

「第二の故郷」の日本を追われ、フランスからも冷たい仕打ち。思うのはレバノンか……

山口 昌子 在フランス・ジャーナリスト

肩身が狭いパリの日本人社会

 ゴーンは4月11日に会見して、身の潔白を証明すると述べていた。日程は「新天皇の即位前」を希望し、新天皇即位の祝賀ムードに水を差さないように配慮した。ゴーンにとって、天皇を象徴とする日本は、何はともあれ、大事な「第二の故郷」だ。

東京拘置所に入るカルロス・ゴーン前会長を乗せたとみられる車両=2019年4月4日、東京都葛飾区拡大東京拘置所に入るカルロス・ゴーン前会長を乗せたとみられる車両=2019年4月4日、東京都葛飾区
 そんなゴーンの大和魂を無視した特捜部の再逮捕は、「人質逮捕」(ゴーンの弁護士・弘中淳一郎)と非難されても仕方がない。「ゴーン4回目の逮捕」を知った知人のフランス人からは、「中国人は池に落ちた犬を叩く、といわれるが、日本人はもっとヒドイね」と言われた。そういえば、日本のメディアが発信するゴーンの顔は、なんと憎々しく、悪漢そのものの怖い顔をしていることか。多分、こういう表情をわざわざ選んだのだろう。

 パリの日本人社会はゴーン逮捕以来、実は肩身の狭い思いをしている。倒産寸前の日産をゴーンが救済したのは正真正銘の事実だからだ。そのゴーンを腹心の西川社長が裏切り、ゴーンを刑務所に送り、恩を仇で返したと思っているからだ。

 「日本人は平気で人を裏切る国民だとは思わなかった。ブシドウに反するのではないか」とも言われた。「日本の検察や一部メディアは、ゴーンに個人的な恨みでもあるのか。ゴーンに対する異常な憎悪を感じる。もはや正義という職業的倫理の域をはるかに逸脱している」とも。

ゴーンに冷たいフランス

 もっとも、フランスもこのところ、ゴーンに冷たい。ルノーはまさに逮捕前日の4月3日の取締役会後、声明で日産との合弁会社RNBVで数百万ユーロ(数億円)の不正支出の疑いありと発表。6月の株主総会で取締役を辞任し、退職金も支払わないことを決めたと発表した。ゴーンは1月にルノーの会長兼最高経営責任者(CEO)も辞任しているので、取締役を辞任すれば、ルノーとの縁は切れる。

 ゴーンも3日、フランスの民放テレビとの会見で「日産の陰謀」を訴え、フランス政府に救済を求めたが、管轄のルメール経済・財務相は、「推定無罪の原則」を指摘したに留まり、ルドリアン外相も先のG7外相会合(仏北部ディナール)の会見で、「推定無罪」に加え、「気にしている」と多少、ゴーンに配慮したが、ゴーン逮捕当時の「三色旗」にかけて、自国民救済に乗り出す意気込みに比べると、明らかにトーンダウンだ。マクロン大統領が意図するとされる日産とルノーの合併は、ルノーの新会長スナールの手で密かに着々と進められていると言われる。

 「ゴーンはレバノン人だ。フランス国籍でも、フランス人ではない」と人種差別まがいの言葉を放ったフランス人もいた。フランスは刑法で厳しく差別を禁じているので、ゴーンが提訴すれば有罪判決間違いなし。高額な罰金に加え、場合によっては刑務所行きだ。

 ゴーンがルイ・シュワイツアーの後任として、ルノーの会長に就任した2005年の株式総会の様子を思い起す。ゴーンは約4千人が埋め尽くす会場のパレ・ド・コングレの檀上で、緊張で頬を上気させ、レバノンなまりが微かに残るフランス語で、「偉大な国フランス」への賛辞を何度も繰り返した。

 だがこのとき、ゴーンは自分がブラジル生まれ、レバノン人であることを強く意識していたに違いない。仏自動車大手ルノーの頂点に立ったゴーンに対する密かな敵意と、あからさまな嫉妬を、ヒシヒシと感じていたはずだ。

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筆者

山口 昌子

山口 昌子(やまぐち しょうこ) 在フランス・ジャーナリスト

産経新聞パリ支局長を1990年から2011年までつとめる。著書に『ドゴールのいるフランス』(河出書房新社)、『フランス人の不思議な頭の中』(KADOKAWA)、『原発大国フランスからの警告』(ワニブックスPLUS新書)、『フランス流テロとの戦い方』(ワニブックスPLUS新書)、『ココ・シャネルの真実』(講談社+α新書)、『パリの福澤諭吉』(中央公論新社)など。ボーン・上田記念国際記者賞、レジオン・ドヌール勲章シュヴァリエを受賞。

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