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「殺されてもいい」小泉首相捨て身の郵政選挙の罪

平成政治の興亡 私が見た権力者たち(14)

星浩 政治ジャーナリスト

自民党幹事長に武部氏を抜擢

自民党幹事長に抜擢された武部勤氏=2004年9月27日、自民党本部 
拡大自民党幹事長に抜擢された武部勤氏=2004年9月27日、自民党本部
 だが、小泉首相はひるまない。さらに次の手を打った。自民党役員人事と内閣改造である。

 党人事では、参院自民党を牛耳る青木幹雄参院議員会長と森喜朗前首相の意向を聞いた。その結果、参院選敗北の責任をとると明言していた安倍晋三幹事長を幹事長代理に降格させ、後任の幹事長には武部勤氏を抜擢(ばってき)した。

 武部氏は農水相を務めたことはあるが、政府・自民党の要職はほとんど経験していない。ただ、党内では「最高のイエスマン」と言われ、上司に忠実であることは確かだった。小泉氏はそこに目をつけた。

 政調会長は額賀福志郎氏の後任に与謝野馨氏をあてた。さらに政調副会長兼郵政改革合同部会座長に園田博之氏を起用。この与謝野・園田コンビが、郵政民営化を実務的に仕上げていく。

郵政民営化をめぐる同床異夢

 そのころ、私は与謝野氏にインタビューしているが、郵政民営化について実に明快に解説していた。

 「世の中は郵政民営化で大騒ぎしているが、財政再建や社会保障の見直しに比べれば大した問題ではない。戦後の日本が発展途上だったころ、道路や橋などの建設に多額の資金が必要だった。金利が高く政府が保証する郵便貯金でカネを集め、その資金を活用した。高度成長が終わり、成熟社会が見えてきて、郵便貯金のような金集めは必要なくなった。それでも郵便局は地域に根を張っていたので、政治的な事情から民営化はできなかった。それを小泉氏がやろうとしている。銀行や地域社会との折り合いをつけて、徐々に民営化していけばよいだけの話だ」

竹中平蔵・郵政民営化担当相=2005年3月15日拡大竹中平蔵・郵政民営化担当相=2005年3月15日
 その通りだと思った。園田氏も「賛成論と反対論を政策的に調整すればよい。政局の話ではない」と話していた。しかし、小泉氏は違った。郵政民営化を進めることで、旧田中派など自民党内の「抵抗勢力」をあぶり出す。そのためには衆院の解散・総選挙も辞さない。それが小泉氏の戦略だった。

 そんな小泉氏を政策面から支えたのが、夏の参院選で比例区の自民党公認として当選した竹中平蔵氏だった。内閣改造では経済財政相と郵政民営化担当相を兼務して、民営化の具体案づくりを進めた。9月27日、自民党の新執行部と改造内閣が発足。小泉首相は記者会見で「この内閣は郵政民営化実現内閣」と宣言した。

  その後、郵政民営化をめぐる攻防が本格化していく。


筆者

星浩

星浩(ほし・ひろし) 政治ジャーナリスト

1955年福島県生まれ。79年、東京大学卒、朝日新聞入社。85年から政治部。首相官邸、外務省、自民党などを担当。ワシントン特派員、政治部デスク、オピニオン編集長などを経て特別編集委員。 2004-06年、東京大学大学院特任教授。16年に朝日新聞を退社、TBS系「NEWS23」キャスターを務める。主な著書に『自民党と戦後』『テレビ政治』『官房長官 側近の政治学』など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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