合理的でない事件の連続、「令和」は不条理からのスタート
2019年04月12日
このところ、日本の政治をめぐる「何となくいやな感じ」が加速している。「絶対おかしい」と声高に言いたいわけではない。なにか「合理的でない説明」ばかり耳にするのだ。
言葉が宙をむなしく飛び交いながら、時だけが過ぎていく。このまま「令和」という時代に移ろっていくのだろう。
好んで読むミステリー小説になぞらえれば、プロットと肉付けに必要な「事件を起こした動機」と「人がとる合理的な行動」がはっきりしない。ささいな動機と合理的でない行動の連続では、読後感は啞然とするだけだ。
そんな砂をかむような短・長編小説が延々と続いている。
例をいくつか挙げてみたい。ほぼ朝日新聞の紙面を参考にしながら。
では、パソコンを使わないと言う桜田氏を、なぜサイバーセキュリティー対策担当にしたのか。石巻市を「いしまきし」と読む人を、政権の言う「復興五輪」の担当に据えた動機は何か。そもそも来年の東京オリンピックを、なぜ「復興五輪」と呼ぶのか。
それぞれ動機のようなものは漂っているが、ミステリーのように、名探偵が現れ、犯人の「逃げたい」とか「ばれたくない」「他人に罪をきせたい」といった心理からくる合理的な行動を推理し、ズバッと犯人を名指しし、隠れた重大な動機が明らかになり、犯人が潔く認めるような筋書きではない。
桜田氏は、自発的に辞表を出す形をとってあっさり受理された。
菅義偉官房長官が務めると知り、首相は、それほど目立ちたがり屋ではなかったんだなと思いきや、その後の首相談話と会見での質疑で、目立つこと目立つこと。「悠久の歴史」「美しい自然」「四季折々の」「日本の国柄」と、好きな言葉を連発し、「1億総活躍社会をつくりあげることができれば」と国会演説のようになった。
テレビにも出演し、首相一人で次の元号を決めたような印象を与えかねなかった。
だが、公式には令和の発案者も明らかにならず、「万葉集って、いいね」と首相が言ったとか、報道が先行したまま。30年前に平成に決まった時の議事録すらしばらく開示されないという。
改元発表の前後、安倍首相が皇太子さまと面会して何を話したのか、政治と皇室の重要な接点なのだが、これも内容が皆目分からない。なぜ令和になったのか、どこがどう良いのか、決め手になった明確な「動機」が分からない。中国由来の元号を「国書」から選んだ動機も分からない。
そもそもメーデーの5月1日になぜ改元するのか。1月1日でもないし、新年度の4月1日でもない。元号の本来の趣旨からすれば、西暦と無関係な「半端な日」に幕を開けるのが伝統的考えとされる。本当の動機が分からないまま、天皇が変わり、元号も変わる。
今の天皇陛下がなぜ退位を希望したのか。これは動機が明らかになっている。では、何年も前から周囲に退位の希望を伝えていたのに、無視され続けたのはなぜなのか。退位の希望を市民が最初に知らされたのは、政府機関の発表からではなく、NHKの速報だったのは、なぜなのか。
秘密裏に進んだ退位・改元の動きと、華々しい改元ショーの解離は、合理的な行動として説明がつかない。
観光立国へ力を傾けるなか、外国人に不評なキャッシュ(現金)社会を変えようとしている時に、なぜ新札の話なのか。なぜ新元号の発表と改元の間に発表の日を選んだのか。「以前から検討していた」「偶然の一致」だという。つまり特別な動機はないらしい。でも、これが果たして合理的な行動といえるのだろうか。
なぜ苦戦しそうな大阪と沖縄の衆院補選告示の日に「5年後」の話をぶつけてきたのだろうか。その前には、関門海峡を結ぶ「下関北九州道路」事業をめぐって、国土交通副大臣が、副総理の意向を「忖度する」と発言し、辞任に発展した。この副大臣は後に「真実と異なる」と撤回したが、自分で「忖度」と言った事実が「事実と異なる」というのは、日本語として破綻している。
忖度に言及した動機は何なのか。ウソならウソで、なぜそう言ったのか。腑に落ちるような合理的な説明は聞けていない。
その「忖度した」と言われた側の麻生太郎副総理(財務相)が、
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