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平成は「動機のないミステリー」

合理的でない事件の連続、「令和」は不条理からのスタート

市川速水 朝日新聞編集委員

日本の政治をめぐる「何となくいやな感じ」

 このところ、日本の政治をめぐる「何となくいやな感じ」が加速している。「絶対おかしい」と声高に言いたいわけではない。なにか「合理的でない説明」ばかり耳にするのだ。

 言葉が宙をむなしく飛び交いながら、時だけが過ぎていく。このまま「令和」という時代に移ろっていくのだろう。

 好んで読むミステリー小説になぞらえれば、プロットと肉付けに必要な「事件を起こした動機」と「人がとる合理的な行動」がはっきりしない。ささいな動機と合理的でない行動の連続では、読後感は啞然とするだけだ。

 そんな砂をかむような短・長編小説が延々と続いている。

 例をいくつか挙げてみたい。ほぼ朝日新聞の紙面を参考にしながら。

桜田五輪相の辞任

拡大安倍晋三首相に辞意を伝えた後、報道陣の取材に答える桜田義孝五輪相=2019年4月10日、首相官邸
 4月10日夜、桜田義孝・五輪相が失言で辞任した。「復興以上に議員が大事」と公然と語ったのが直接の原因だが、就任以来、国会内外での失言、失笑を買う言い間違いはいくつもあった。

 では、パソコンを使わないと言う桜田氏を、なぜサイバーセキュリティー対策担当にしたのか。石巻市を「いしまきし」と読む人を、政権の言う「復興五輪」の担当に据えた動機は何か。そもそも来年の東京オリンピックを、なぜ「復興五輪」と呼ぶのか。

 それぞれ動機のようなものは漂っているが、ミステリーのように、名探偵が現れ、犯人の「逃げたい」とか「ばれたくない」「他人に罪をきせたい」といった心理からくる合理的な行動を推理し、ズバッと犯人を名指しし、隠れた重大な動機が明らかになり、犯人が潔く認めるような筋書きではない。

 桜田氏は、自発的に辞表を出す形をとってあっさり受理された。

華々しい改元ショー

拡大新元号「令和」の書を傍らに、記者会見する安倍晋三首相=4月1日、首相官邸
 新しい元号「令和」の読み上げ役を4月1日に誰がやるのか、平成の時と同じ官房長官か、安倍晋三首相が出てくるかどうかに注目していた。

 菅義偉官房長官が務めると知り、首相は、それほど目立ちたがり屋ではなかったんだなと思いきや、その後の首相談話と会見での質疑で、目立つこと目立つこと。「悠久の歴史」「美しい自然」「四季折々の」「日本の国柄」と、好きな言葉を連発し、「1億総活躍社会をつくりあげることができれば」と国会演説のようになった。

 テレビにも出演し、首相一人で次の元号を決めたような印象を与えかねなかった。

 だが、公式には令和の発案者も明らかにならず、「万葉集って、いいね」と首相が言ったとか、報道が先行したまま。30年前に平成に決まった時の議事録すらしばらく開示されないという。

 改元発表の前後、安倍首相が皇太子さまと面会して何を話したのか、政治と皇室の重要な接点なのだが、これも内容が皆目分からない。なぜ令和になったのか、どこがどう良いのか、決め手になった明確な「動機」が分からない。中国由来の元号を「国書」から選んだ動機も分からない。

 そもそもメーデーの5月1日になぜ改元するのか。1月1日でもないし、新年度の4月1日でもない。元号の本来の趣旨からすれば、西暦と無関係な「半端な日」に幕を開けるのが伝統的考えとされる。本当の動機が分からないまま、天皇が変わり、元号も変わる。

 今の天皇陛下がなぜ退位を希望したのか。これは動機が明らかになっている。では、何年も前から周囲に退位の希望を伝えていたのに、無視され続けたのはなぜなのか。退位の希望を市民が最初に知らされたのは、政府機関の発表からではなく、NHKの速報だったのは、なぜなのか。

 秘密裏に進んだ退位・改元の動きと、華々しい改元ショーの解離は、合理的な行動として説明がつかない。

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筆者

市川速水

市川速水(いちかわ・はやみ) 朝日新聞編集委員

1960年生まれ。一橋大学法学部卒。東京社会部、香港返還(1997年)時の香港特派員。ソウル支局長時代は北朝鮮の核疑惑をめぐる6者協議を取材。中国総局長(北京)時代には習近平国家主席(当時副主席)と会見。2016年9月から現職。著書に「皇室報道」、対談集「朝日vs.産経 ソウル発」(いずれも朝日新聞社)など。

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