F35頼りの防空体制は危険。機種は最低3種類が望ましい
2019年04月12日
青森県沖で訓練をしていた航空自衛隊の最新鋭ステルス戦闘機「F35A」が4月9日夜、太平洋上に墜落した。事故を受け、防衛省は同じ航空自衛隊三沢基地に属する残りの12機のF35Aを飛行停止にした。
事故機にいったい何が起きたのか。最新鋭の機体に異常があったのか。それとも、パイロットの操縦ミスなのか。
いずれにせよ、F35Aの墜落事故は世界で初めてであり、各国の軍事関係者が事態の推移を注視している。原因の究明が急がれるなか、拙稿では主にこの墜落事故が投げかける日本の安全保障面への影響について記してみた。
そもそもF35とはいったいどのような戦闘機なのか。
F35は米ロッキード・マーチン社製だ。通常離着陸型のF35A、短距離離陸・垂直着陸型のF35B、艦上戦闘型のF35Cの3つのバリエーションが存在する。それぞれ、順にアメリカの空軍、海兵隊、海軍が採用している。
ちなみに、軍事に詳しくない方のために説明すると、戦闘機の名前の付け方は国によって違う。アメリカでは「F15」「F22」「F35」の「F」は「ファイター(fighter)」の意味の戦闘機を表す。Fのほか、Aが攻撃機(attacker)、Pが哨戒機(patrol)、Bが爆撃機(bomber)、Cが輸送機(carrier)を意味し、「機種記号」と呼ばれる。
この機種番号の次には「設計番号」の数字が来る。設計順に付けられるため、新しい機種ほど数字が大きくなる。F22よりF35が新しいことを示す。F35が最新鋭のステルス戦闘機と呼ばれる所以(ゆえん)だ。
また、「F35A」や「F35B」など最後に付いているアルファベットは、同一機種におけるバリエーションを示し、アルファベットが進むにつれて、新型であることを示している。
さて、そのF35はアメリカ、イギリス、イタリア、オランダ、トルコ、カナダ、オーストラリア、ノルウェー、デンマークの9カ国による国際共同開発機だ。現在、アメリカとのF35売却問題で揺れる北大西洋条約機構(NATO)加盟国のトルコも、実はシステム開発実証(SDD)の段階から参加し、降着装置やコックピットに搭載されるディスプレイなどの部品を供給している。
ロッキード・マーチンによると、2019年4月時点で3000機以上の建造が計画され、すでに世界中で380機以上が引き渡された。訓練を受けたパイロットは790人超、整備保守担当者は7200人超にそれぞれ及ぶ。
世界ではアメリカとその同盟国7カ国の17の基地に配備済みだ。日本では青森県の米空軍三沢基地と航空自衛隊三沢基地にF35Aが、山口県の米海兵隊岩国基地にF35Bがそれぞれ配備されている。お隣の韓国でも3月29日に韓国空軍清州基地に2機のF35Aが引き渡されたばかりだ。
F35をめぐる世界での部品供給企業は1600社を超え、アメリカだけでも直接雇用、間接雇用を含め、19万4000人の職を生み出しているという。
今回の墜落事故が世界の大きな注目を集めている理由は、F35の調達がグローバルに広がっているという点にある。
「墜落機がF35であること、そして、日本がF35を大量に購入していることを踏まえると、今回の事故は重要な出来事だ」
筆者が東京特派員を務める英軍事週刊誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』のアジア太平洋担当デスクは4月9日夜、墜落事故の一報を聞き、こう述べた。
空自は現在4種類の戦闘機を使っているが、F35への依存度を年々高めている。
2018年度の防衛白書によると、空自は昨年3月末時点で、ベトナム戦争で名を馳せた第3世代のF4を52機、1981年より運用を開始し主力戦闘機である第4世代のF15を201機、米ゼネラル・ダイナミクスが開発したF16をベースに日米が共同開発した第4世代のF2を92機、そして、第5世代のステルス戦闘機F35Aを4機それぞれ保有していた。
このうち、老朽化が進むF4は2008年以降、本格的な減勢に入っている。そのF4の後継機として、民主党時代の野田佳彦政権が2011年12月、アメリカ主導で国際共同開発中のF35Aを次期主力戦闘機(FX)として正式に決定、42機の購入を決めた。世界の空軍では、機体のマルチロール化(多用途運用)が進んでおり、空自も自ずと空対空、空対地、空対艦攻撃をすべてこなせる「マルチロールファイター」のF35を選ぶ結果となった。
2012年度予算には早速、F35A戦闘機4機分の395億円を含むF35A取得関連600億円を新規計上した。以後、防衛省は毎年コンスタントに2~6機のF35Aの取得費を計上、2019年度予算までに合計で40機分の取得費として約5800億円を計上している。これは単純計算で1機当たり約145億円になる。毎年の整備用器材など関連経費を含めれば約8750億円に達する。
安倍内閣は昨年12月、F35を将来的に147機体制とする方針を閣議了解した。F35Aは当初予定の42機からさらに63機を追加購入。さらにヘリ空母「いずも」と同型の「かが」に搭載するF35Bも42機調達する方針を決めた。追加取得の総額は少なくとも約1兆2000億円に上る見通しだ。
F4は2020年度に全機退役する予定だ。
F15は近代化改修に適さない99機と、近代化改修で寿命を延長させた102機に分かれる。前者は2020年代後半に退役時期を迎えることから改修せず、F35が代替していく。後者も2030年代後半から2040年ごろまでに退役の時期を迎えるとみられる。一方、F2の退役と減勢は2035年ころから始まる見込みだ。防衛省はこれに合わせて、F2の後継機となる第6世代の新戦闘機F3の配備もそのころまでには開始したい意向だ。
このようにみていくと、現在はF4、F15、F2、F35Aの4機種体制が、2030年代後半以降はF35とF3の2機種体制になりかねない。F2の寿命が仮に2050年ごろまで持ったとしても、空自としては次世代の技術が駆使された戦闘機を揃(そろ)えて、中国やロシアの戦闘機に対峙(たいじ)していきたいところだろう。近年の急速な技術の進展を踏まえると、対地攻撃、対艦攻撃能力を持つF2の性能も陳腐化する恐れがあるからだ。
将来F35とF3の2機種体制になった場合、ソフトウエアにバグが見つかったり、原因不明の墜落事故を起こしたりして、両機が同時に「飛行停止措置」になったら、運用可能な戦闘機がなくなってしまうリスクがある。実際、2007年には一時的とはいえ、F15とF2が同時に飛行停止となり、老朽化したF4のみが日本の空を守る事態に陥ったこともある。この時はまだ3機種体制だから助かったが、2機種体制ならさらにリスクが高まる。
安倍首相は105機の追加購入を決めた際、こうした事態を想定していただろうか。2機種体制に陥る危うさを考えるより、
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