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異文化の各国弁護団がゴーン事件で持つ同じ目的

再逮捕はゴーン・前日産会長の無罪獲得に影響するか

酒井吉廣 中部大学経営情報学部教授

有罪を認めて司法取引をした日産

 日本の刑事訴訟の専門家によれば、ゴーン前会長を有罪とするためには、①金融商品取引法違反には虚偽記載を行う意思があったか②商法違反の特別背任には日産から取引先に送金した段階で経営判断原則に照らして任務違背となるような意思があったか――がカギだという。とはいえ、どちらの立証も難しいとの見方もある。

 またそれぞれを、刑事犯とするほどの金額規模か(金商法違反)、販売奨励金としての有用性やその対価の相当性から逸脱した金額規模かを立証することについても、議論は割れているようだ。

 しかし、日産が、自分達は前会長と同様に法人として有罪だと認めたうえで、社内調査結果等を検察に提出していることを前提とすれば、今後も検察がどのような容疑で逮捕してくるか未知数である。このため、弁護団としては公判が始まるまで、事実関係について自分たちの持つ情報を発信することは、決して利口な行動とは言えない。

 この間、弁護団として公判まで検察と事実認識を争わないとの判断は、前会長の公判と、同じ罪で法人として起訴されている日産などとの公判を分離して、担当する裁判官の構成も変えるよう求めた、3月31日の弘中弁護士自身による主張にも符合する。

 同じ事件の異なる被疑者が、片方は司法取引で罪を認めて全ての証拠を提出しているにもかかわらず、両方を併合した公判を受けた場合、残りの一方も有罪となる確率が高くなる。また、分離された公判でも、同じ裁判官に裁かれた場合には、片方が有罪を認めているのに他方を無罪と出来るか、という疑問が残る。

 しかし、この要求が実現したとしても、公判前に事実を表に出すことは決して有利ではないので、今後も出さない方が良いのは当然のことだ。

欧米メディアが長期勾留は人権侵害と主張する背景

東京拘置所に入るカルロス・ゴーン前会長を乗せたとみられる車両=2019年4月4日、東京都葛飾区拡大東京拘置所に入るカルロス・ゴーン前会長を乗せたとみられる車両=2019年4月4日、東京都葛飾区
 一方、欧米のメディアが日本の司法制度に基づく長期の勾留等を人権侵害と主張し続ける背景には、欧米諸国と日本の司法制度の違いがある。

 特に、米国では裁判官に対して無罪と答弁した被疑者は保釈されるのが基本である。1990年から2004年までの統計では、(1年の禁固・懲役以上の)重罪犯被疑者のうち62%が保釈され、残りのうち保釈金を用意できず保釈されなかった者を除く、最初から保釈が認められなかったのはわずか7%なのである。なお、90年頃を境に勾留された被疑者が無罪判決を受ける例が増加、2007年以降はその比率が6割を超えていたこともあり、米国では保釈金額引下げを検討する動きが進んでいる。

 これは日本と真逆のルールであるが、米国では、推定無罪の原則の下、有罪判決を受けるまでの被疑者を勾留しないことで、社会の信用、職業、財産、家族を失うリスクから守ることを目的としている。証拠隠滅の恐れについては、証拠の保全を政府の責任として、それが妨害された場合は別の犯罪として対応する仕組みだ。なお、保釈金が逃亡を防ぐ効果についても問題視する声が強まっており、カリフォルニア州では昨年保釈金ゼロの法案が通過した(今年10月より施行)。

 こうした考え方は、世界人権宣言等にも取り入れられているなど、少なくとも欧州諸国では一般化しており、これが、ゴーン前会長への日本の検察の対応への批判に繋(つな)がっている。

最大のリスクはゴーン前会長の自白

 弁護団にとって長期勾留の最大のリスクは、ゴーン前会長が検察の厳しい取調べに疲れて、(真実とは無関係に)自白することである(もちろん、弁護団は無罪を信じているわけで、前会長の故意が本当にあったのだとすれば、仕方がないのだが……)。

 日産が、司法取引をして、有罪を認めて社内調査資料の提出等を行っている以上、前会長がこれを認めることは有罪が確定してしまうようなものである。また、日産側からの証拠だけでは不十分な場合に、それを前会長の自白が埋め合わせて有罪の可能性を一段と高めるリスクもある。

 このため、弁護団は、人権問題という世界的な目だけでなく、こうした公判における不利な状況の発生を防止するためにも、これ以上の長期勾留を阻止したいのだ。

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筆者

酒井吉廣

酒井吉廣(さかい・よしひろ) 中部大学経営情報学部教授

1985年日本銀行入行。金融市場調節、大手行の海外拠点考査を担当の後、信用機構室調査役。2000年より米国野村証券シニア・エグゼクティブ・アドバイザー、日本政策投資銀行シニアエコノミスト。この間、2000年より米国AEI研究員、2002年よりCSIS非常勤研究員、2012年より青山学院大学院経済研究科講師、中国清華大学高級研究員。日米中の企業の顧問等も務める。ニューヨーク大学MBA、ボストン大学犯罪学修士。

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