【13】ナショナリズム 日本とは何か/沖縄と「祖国」③
2019年07月11日
この連載で私は、ナショナリズムについて、明治に生まれた近代国家・日本がまとまりを追求し続ける動きととらえ、幕末以降を点描してきた。
戦後の沖縄に舞台を移した前々回と前回では、米軍統治からの「民族の解放」を目指した祖国復帰運動に触れた。沖縄は1972年に日本に戻ったが、日米安保体制という戦後の新たな「国体」にはめ込まれ、「在日米軍基地が集中する沖縄」となって今に至ると書いた。
移設先として、政府が「抑止力維持と基地負担軽減の両立を満たす唯一の選択肢」とする名護市辺野古沖の埋め立てに対し、県民が示した意思は、投票率5割超、うち「反対」は7割超だった。
戦後日本に生まれた日米安保体制という「国体」が、ナショナリズムを分断している。それは、1952年4月8日、日本が主権を回復する一方で、米軍の要衝として切り捨てられた沖縄の「屈辱の日」まで溯る差別の構造として、沖縄の人々に意識され続けている。
そうした「国体」をめぐる日本と沖縄の分断の淵源として、避けるわけにはいかない出来事がある。
米側の公文書をもとに79年に明かされたこの「天皇メッセージ」については、その意図や影響をめぐり今も評価が分かれる。
それは、この出来事があった47年9月が、近代国家・日本の行方を左右する動乱のさなかだったということもある。戦前は統治者として「国体」の中心にあった昭和天皇が、GHQ占領下でできた新憲法の施行により「日本国と日本国民統合の象徴」となった直後だった。
だが、昭和天皇が72年の沖縄返還にあたっては「さきの戦争中および戦後を通じ、沖縄県民の受けた大きな犠牲をいたみ、長い間の労苦を心からねぎらう」と述べ、その思いを抱えながら世を去って30年。遺志を平成に継いだ天皇陛下(いまの上皇さま)も今年退位した。
時は着実に過ぎていく。風化せぬよう、「天皇メッセージ」に関する事実を時系列で整理しておく。丸カッコ内は私が注記した。
◇1947年
・9月20日 シーボルトから同日付でマッカーサーに宛てたメモ(天皇メッセージ)より以下に抜粋、概訳。
「寺崎は、米国による沖縄の軍事占領継続を天皇が望んでいると語った。天皇の考えでは、そうした占領は米国の利益、日本への保護となる。日本の人々はロシアの脅威だけでなく、台頭する右翼や左翼が起こす事件にロシアが乗じ日本の内政に介入することを恐れているので、(米国の沖縄占領継続は)広く受け入れられる。沖縄の占領は、日本の主権を残しつつ、20~25年かそれ以上の長期貸与という擬制をとるべきだ、と天皇は思っている」
・9月22日 シーボルトから同日付で米国務長官マーシャルに宛て、上記のマッカーサー宛てメモのコピーを送る。
◇1979年
・4月19日 宮内庁侍従長の入江相政が昭和天皇から呼ばれ、「『沖縄をアメリカに占領されることをお望みだった』といふ件の追加の仰せ。(日本の敗戦後、中華民国の)蔣介石が占領に加はらなかったので、ソ連も入らず、ドイツや朝鮮のような分裂国家にならずに済んだ。同時にアメリカが占領して守つてくれなければ、沖縄のみならず日本全土もどうなつたかもしれぬとの仰せ」(入江相政日記、1991年、朝日新聞社)
「当時はすでに憲法が施行されておる。この問題は国家主権と国民主権の問題なんです。(沖縄の)百万人、日本国民なんです。実に売国行為である」
「あした、4・28という民族屈辱の日、(52年に)対日平和条約が発効して(主権を回復した日本に沖縄が)断ち切られた日なんです。その苦しみの根源がここにあった」
そのころ国会では、「元号法案」が審議中だった。明治、大正、昭和と継がれてきた一世一元の元号を、「広く国民の間に定着し、大多数の国民が存続を望んでいる」(首相の大平正芳)として法制化しようという世相だった。
それでも瀬長は、5月31日の国会で改めて「沖縄の長期にわたる軍事占領支配が天皇の提言に基づいて行われたという歴史の証言である」と訴えた。答弁に立った外相の園田直は、「調査の結果は、そういう事実や記録は全然ない。私個人で判断しても、そういうことに天皇が自らの意見を発表されるようなことは絶対にあり得ない」と反論した。
先の「入江相政日記」には、5月2日に昭和天皇に宮内庁長官が拝謁し、「瀬長議員質問の例の寺崎・シーボルトの件につき申し上げる」とある。瀬長の追及ぶりは伝わっていたようだ。
そして、宮内庁は2017年に編集した「昭和天皇実録」で、「天皇メッセージ」について上記の1947年9月の経緯をほぼ確認している。
何だか、今の安倍晋三首相の言い回しと似ている。今年2月10日の自民党大会での総裁挨拶では、
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