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母親ジュゴンBの死は忘却されるのか

AとCも行方不明。沖縄の海からジュゴンが消えた。ジュゴンも沖縄も忘れられるのか

島袋夏子 琉球朝日放送記者

辺野古・大浦湾の2頭も行方不明

 「3頭しかいないジュゴンのうち、1頭が死んでしまったことで、残る2頭の保護が、これまで以上に重要になったといえる」

 こう語るのは、ジュゴン保護キャンペーンセンターの吉川秀樹さんだ。

 だが、2頭の生存も危ぶまれている。

 2頭が餌場にしていたのは、名護市辺野古・大浦湾。そこはご存知の通り、国が巨大基地建設に向けて、埋め立てを進めている海域である。

 沖縄防衛局の環境アセスメントでは、「埋め立てで辺野古の餌場の一部は消失するもののジュゴンに影響はない」「環境保全措置をとるので、ジュゴンに及ぼす影響は回避できる」としていた。

 しかし人間が、餌場がどうとか、環境保全措置がどうとか、妥当かどうかもわからない予測をめぐって揉めている間に、ジュゴンの身には変化が起きていた。

 2014年、埋め立て工事を前に、巨大コンクリートブロックが海に投入されると、翌年の7月以降、この辺りでも見かけられていたジュゴン1頭が忽然と姿を消した。

 いなくなったのはBの子であるCだ。

拡大沖縄防衛局環境影響評価書より 個体C

 Cは親離れすると、生まれ育った西海岸から、はるばる100キロ離れた辺野古まで、やって来ていた。ところが突然、姿を見せなくなったのだ。

 もちろんCの失踪が、工事の影響かどうかは、わからないという指摘もある。

 だが、そうこうしているうちに今度は、大浦湾のサンゴ礁内の海草藻場を餌場にしていたもう一頭Aも、去年10月以降、行方不明になっていることがわかった。

 つまり辺野古・大浦湾にいた2頭ともが、工事が加速する中で、いなくなっていたのである。

拡大沖縄防衛局環境影響評価書より 個体A

 吉川さんは、沖縄防衛局の環境アセスメントに対しては、海外からも痛烈な批判があがっていると指摘する。新基地建設を止めようと、日米の環境保護団体などがアメリカ国防総省を訴えた「ジュゴン訴訟」の過程で開示された文書だ。

 それは、アメリカ国防総省が委託した海洋哺乳類学者が、海兵隊司令部保全課の担当官に宛てたメールだった。

 この中では、「(沖縄防衛局による)環境アセスメントはほとんど価値を持たない」、「科学的検証に耐えられない」と、調査の質を厳しく評価し、「沖縄防衛局の環境アセス準備書を使って、ジュゴンへの影響を評価することはできない」とまで言い切っていた。

 しかし日本政府は去年12月14日、辺野古で埋め立てを始めた。アメリカ政府が依頼した専門家ですら、酷くダメ出しした環境アセスメントを根拠に、工事を進めたのだ。

 ジュゴンたちが、なぜいなくなったのか。今も生きているのか。

 国は、ジュゴンが辺野古・大浦湾で確認できなくなっていることと工事は関係ないと主張している。

 ただ一つ確かなことは、ジュゴンがいなくなったことで、国は工事を進めやすくなった、ということだろうか。

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筆者

島袋夏子

島袋夏子(しまぶくろ・なつこ) 琉球朝日放送記者

1974年沖縄県生まれ。琉球大学法文学部卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修了。 山口朝日放送で約10年勤務したのち、2007年に琉球朝日放送入社。米軍基地担当などを経て、現在はニュースデスク、調査報道担当。2014年「裂かれる海~辺野古 動き出した基地建設~」で第52回ギャラクシー賞番組部門大賞、2016年「枯れ葉剤を浴びた島2~ドラム缶が語る終わらない戦争~」で日本民間放送連盟賞テレビ報道部門最優秀賞、2017年石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞公共奉仕部門奨励賞など。

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