バイアグラは半年で認可、ピルは34年の不条理
元参院議員・円より子が見た面白すぎる政治の世界⑥男性優位の政策決定との対決
円より子 元参議院議員、女性のための政治スクール校長
政治は男性の問題にならないと動かない
労働省の担当者に説明を求めたのは、男女雇用機会均等法を所管し、男女間の採用・昇進・収入などさまざまな差別の撤廃に向けて努力している、いわば女性問題のパイオニアだと考えていたからである。当然ながら、年齢差別についても調査し、撤廃に向けて活動していると思っていた。現実は違った。
「私たちの部署は年齢差別については扱っておりません」
「でも、多くの女性が年齢によって再就職時に差別されている。結婚や育児で仕事を辞めざるを得ないのは、圧倒的に女性。間接的な男女差別ではないか。一歩譲って女性に限らないにしても、労働者の条件を改善するのが労働省の仕事であれば、年齢差別について考える部署くらいあるでしょう?」
「いえ、ありません。先生のご意見はごもっともですが」
その後、バブルがはじけ、銀行の貸し渋りや貸し剥(は)がしで倒産が激増。中高年男性の自殺や失業が増え、50代男性の再就職が大きな課題になって初めて、年齢差別が問題となり、求人情報からようやく年齢が消えることになる。この国ではまだまだ、社会課題が男性の問題にならない限り、政治が動くことはないのである。
「北朝鮮に負けたくないよな」と言った小泉さん

厚生大臣室で小泉純一郎さんに要望書を提出する円より子さん=1996年12月25日
男性優位の政策決定について、少々脱線するが、書いておきたい。避妊薬の話だ。
女性が医薬品として処方される中用量の経口避妊薬ピルは、副作用が多いにもかかわらず、それが少ない低用量のものはなかなか認可されなかった。国会議員になる前、私は離婚講座や電話相談などで3万人近い妻たちから相談を受けたが、中絶体験で心に傷を負っている人が少なくなかった。低用量ピルが普及すれば、妊娠中絶件数は確実に減少し、トラウマを抱える人も減るはずと、ずっと思っていた。
しかし、日本で避妊といえばコンドームが多い。いわば男性任せであり、「女性の自立」が言われて久しいのに、ピル認可への運動は盛り上がらない。当時、経口避妊薬は違法であり、不規則な月経周期の管理やその他の医療目的のためにしか処方されていなかった。
そこで私はピルを認可するよう、何度も国会で質問した。だが、厚生省の官僚は「日本の女性と欧米の女性は体が違うから」という木で鼻をくくったような答弁をするばかり。思いあまって、当時厚生大臣だった小泉純一郎さんに低用量ピル解禁の要望書を持って説明に行った。
低用量ピルが日本や北朝鮮で認可されていないと実情を説明すると、小泉さんは驚いた表情で言った。
「えー、北朝鮮と同じなの? 差別しているみたいにとられると困るけど、北朝鮮に負けたくないよな」
その後、1999年になってようやく認可されたが、国連加盟国の中では最も遅かった。ピルが入手可能になってから、実に34年も経っていた。
対照的なのは、男性対象の勃起薬バイアグラで、半年で認可されている。「なぜバイアグラは半年で認可なのか」という女性議員たちの怒りの声で、ようやくピルも認可となったのだ。これが男女差別でなくて、何であろう。女性は身体や性について無知な方がいいという考えが、根底にあるに違いない。