大野博人(おおの・ひろひと) 元新聞記者
朝日新聞でパリ、ロンドンの特派員、論説主幹、編集委員などを務め、コラム「日曜に想う」を担当。2020年春に退社。長野県に移住し家事をもっぱらとする生活。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
今度あなたがパリを訪れるとき、街は深く傷ついているにしても、もっと強くなっている
天に向かってまっすぐに伸びていた塔が崩れ落ちていく――。
パリのノートルダム大聖堂炎上の映像は破局的な出来事だという印象を見る者に与える。たとえば9.11米国同時多発テロで崩れ落ちていったニューヨークのツインタワーを連想させる。
崩壊の事情も人的被害の大きさもまったく違うけれども、こうした映像が人の心に引き起こす感情には似ているところがあるのかもしれない。
なすすべのない無力感。
パリに住む友人は、発生の15分後に目撃した。乗っていた地下鉄が少し地上を走る区間であるオステルリッツ橋付近にさしかかって気付いた。
「ノートルダムが燃えている」。彼女に言われて外を見たほかの乗客たちは呆然とし、車内は沈黙が支配したという。
帰宅してテレビをつけると「黙示録的だった」。さらなる崩壊に脅かされる「800年の歴史と必死で食い止めようとする消防隊員たち」。見続けることに耐えられずテレビを消してしまったそうだ。
自分たちが誇る社会の歴史や繁栄の象徴。それが折れていく姿を目の当たりにして人は言葉を失う。映像の衝撃は大きい。
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