衝撃公約の実現可能性を探ってみると、ひょっとすればの道が見えてきた
2019年04月22日
山本太郎氏が以下の衝撃的な公約を掲げ、「れいわ新選組」を立ち上げました。
①消費税廃止
②最低賃金1500円(政府補償付)
③奨学金徳政令
④公務員増
⑤一次産業戸別所得保障
⑥トンデモ法一括見直し
⑦辺野古基地建設中止
⑧原発即時廃止
です。
山本太郎さんには、私が新潟県知事選挙に立候補したときにずいぶんお世話になり、その後も色々な所で同席させて頂き、ご縁浅からぬものがあります。
氏の勇気あるチャレンジに敬意を表して、国、地方とも財政事情の厳しい今、財政措置を必要とする①~⑤について、「れいわ新選組」の公約は実現可能か、検討してみたいと思います。
とはいえ、ただ単に検討すると、「財源不足でできません」の一言で終わってしまってまったく面白くありません。せっかくですので、「多少公約を変更してでも、可能な限り実現するにはどうしたらいいか」という方向で検討させていただきたいと思います。
さて、「可能な限り実現する」→「可能なところから実現する」という観点からすると、まず取り組むべきは、私は「最低賃金1500円」であると思います。理由は簡単です。国の財源が必要な消費税廃止や奨学金徳政令と違って最低賃金は、これを払うのは民間ですから、財源は不要。理屈としては、明日からでも実現できるからです。
しかし、いきなり最低賃金を20%引き上げ、失業の山を築いた韓国の失敗を鑑みると、現在加重平均で874円の最低賃金をいきなり倍近くの1500円に上げるのは現実的ではありません。デービッド・アトキンソン氏が提唱しているように、年5%ずつ11年かけて1500円にするのが現実的だと思います。現在地域ごとに異なる最低賃金の一律化は、この過程で東京に地方が追いつく形で実現できます。
まず、良く言われる「最低賃金を上げると国際競争に負ける。」はそれほど心配が要らないように思えます。国際比較すると(グラフ1参照)、日本の最低賃金は先進国中でかなり低い部類に属し(アメリカと同程度ではありますが、アメリカは超格差社会で例外でしょう)、いきなり70%増はともかく、日本が先進国型経済であり続けるなら、たった今50%増としてもドイツ・フランス並みの水準になるに過ぎないからです。
次にこの最低賃金の上昇がどのくらい日本全体の賃金上昇、ひいてはGDPの上昇に資するかを考えてみます。ここは推定によるしかないのですが、デービッド・アトキンソン氏が「最低賃金の引き上げが「世界の常識」な理由」という記事で作成されているグラフ2を見ても、厚労省が作成したグラフ3、グラフ4を見ても、アメリカを例外として「最低賃金と労働生産性は相関がある」は結構信ぴょう性があるように思えます。
また、カイツ指数(最低賃金/平均賃金という指数)は日本を含め0.4~0.5で余り変わらないので、この際、最低賃金アップ⇒労働生産性アップ⇒平均賃金上昇アップが同じ割合で実現するとします。
すると、最低賃金70%の上昇により労働生産性も70%上昇して、現在のノルウェー並みになり(逆に言うと、日本は現在ノルウェーの60%の労働生産性しかありません)、今後11年ということなら、毎年0.35%の人口減を加味しても、GDPは毎年4.65%上昇し、11年で65%上昇することになります。
この「れいわ成長シナリオ」は、内閣府が財政の長期見通しで用いている「政府成長シナリオ(名目3%、実質2%)」を凌駕(りょうが)しています。
政府成長シナリオでは名目でGDPが年3~3.6%で成長し、GDP1%の上昇ごとにおよそ1兆円づつ税収が増え、8年後の2026年にGDPが700兆円に達した時点で基礎的財政収支が均衡するとしているのですが、れいわ成長シナリオをここで使われている数字に当てはめると、早くも5年後の2023年にGDPが700兆円に達し、基礎的財政収支の均衡を実現できることになります。
まず最低賃金+15%の労働者はおおよそ400万人、年収としては200~300万円程度で、日本全体でざっと10兆円程度の賃金が支払われています。これを政府が全額補償するのはおよそ現実的ではありません。
仮に、何とか財源をやりくりして全額補償できたとすると、企業の側は、さらに最低賃金近くでの雇用を増やし、人件費赤字分はすべて政府にもらうという方法が使えるので、政府支出がどこまでも拡大してしまいます。そのうえ、この様な方法は、賃金全体を最低賃金近くに張り付け、人手に頼った経済運営を助長することとなり、生産性の向上、経済の効率化にも逆行してしまいますので、代替案を考える必要があります。
そこで改めて先ほどの数字をよく見ると、5%最低賃金を上げることで民間が新たに負担するのは、10兆円の5%、5000億円に過ぎないことが分かります。これなら、5%の賃上げによって達成される、4.65%の経済成長で得られる税収増5兆円弱で十分に賄えます。政府補償は、この5兆円のうち5000億円を使って「中小企業については、前年の最低賃金との差額を、政府が全額補償」し、さらに5000億円を中小企業が業務を効率化するために使えば、中小企業も十分毎年5%の最低賃金上昇ができるものと思います。
こうすることで、れいわ成長シナリオで初年度に得られる経済成長による税収増の5兆円のうち1兆円は、中小企業の賃上げ補償ほかに使われることになります。
それでは、このれいわ成長シナリオで、公約の消費税撤廃は可能でしょうか。
れいわ成長シナリオで4.65%の経済成長を11年続けると、GDPは910兆円となり、税収はざっと50兆円程上昇し、120兆円程になります。他方、人口の高齢化に伴い歳出も上昇し、10年後(残念ながら11年後の推定がなかったので10年後の数字を用います)には、基礎的歳出95兆円、国債費35兆円で、合計130兆円となります。最低賃金が1500円となった11年後、基礎的財政収支はプラスになっていますが、公債費を入れた財政収支はなお、10兆円のマイナスになる計算です。
消費税を撤廃するためには、この時点の消費税収36兆円に、財政収支のマイナス分の10兆円を足した46兆円ほど、さらに税収が増えるのを待つ必要があります。つまり、れいわ成長シナリオをさらに10年継続し、4.65%成長を21年間ほど続ける必要があるわけです。
こういうと、「なんだ、やっぱり山本太郎の公約は実現できないじゃないか」と言われそうですが、実は考えようによっては、消費税撤廃の公約はいとも簡単に実現できます。
現在100円の給与をもらっている人は、消費税によって92円しか消費できません。しかし5%の賃上げが行われると、消費税が10%になっても、2年後には110円の給与を貰い、100円消費することが出来ます。つまり5%の賃上げは、それを2年間続けるだけで、消費税撤廃と同じ効果を持ち、消費税撤廃の公約も実質的に実現できるのです(少々強引ですが)。
次に奨学金徳政令です。現在、奨学金の貸付残高は10兆円であり、これをいきなりゼロにするのはかなり厳しいと言えます。また、日本学生支援機構は、おおむね毎年1兆円の返済を受け、毎年1兆円の貸し出しを行っているのですが、貸付残高を徳政令でゼロにした場合、翌年から奨学金をもらいたい人はどうするのかという問題も生じます。
「ほら、無理じゃないか!」という声が聞こえてきそうですが、しかし、ここでも方法はあります。再び4.65%成長による初年度の税収増5兆円に頼るのです。
「いや、それは半額であって、全額じゃないじゃないか」となりますが、ここでも先ほどの「実質」計算が使えます。現在一人当たりの奨学金返済額は平均320万円で、平均返済年限は18年、1年におおよそ18万円返済しています。まずこの返済が半額免除によって年9万円になります。さらに5%の賃金上昇によって年収200万円の人の賃金は年間約10万円あがるので、半額免除と合わせてほぼ奨学金返済がゼロとなるわけです。
この「賃金上昇によってチャラ」の計算は消費税の時にも使い、ちょっとずるいのを承知でいうと、奨学金負担のある年収200万円の人で、1年の賃上げで奨学金半額分、その後の2年の賃上げで消費税10%分、合計3年で奨学金返済と消費税10%がチャラになる計算となります。
あくまで奨学金全額徳政令にこだわってもいいのですが、そうすると奨学金だけでなく、さまざまな分野で徳政令を期待する政治的圧力が高まってしまいますし、必要のない家庭まで、あの手この手で奨学金を受けようとして、貸付残高が際限なく膨らんでしまいます。そういったモラルハザードを生まないために、公約は「奨学金半額徳政令。後の半額は働いた分の賃上げで返す」と変更するのがいいと思います。
現在、日本の国家公務員は約60万人、平均人件費は678万円。結構な高給取りで、総人件費は5兆円になります。この人員を増やし、かつ給与水準をさらに上げるのは、財政への負担が大きいので難しいのですが、ここでも策があります。
公務員の人件費は据え置いたままで、
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