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「エッグボーイ」を生んだ豪州で高まる極右の波

豪州に代わって難民を受け入れるというニュージーランドの提案の行方も不透明に

海野麻実 記者、映像ディレクター

差別を助長する言動に立ち向かった英雄

 まず、生卵の被害に遭った当のアニング議員については、「恐ろしい犯罪の犠牲者に非難の矛先を向け、宗教に基づいて中傷した」としてオーストラリア上院から公式にけん責を受けながらも、「エッグボーイ」を殴った行為は正当防衛だったとされ「訴追はしない」とのオーストラリア警察による判断が下された。一方、「エッグボーイ」も同じく訴追は免れたが、厳重注意を受けることとなった。

「エッグボーイ(EGG BOY)」の似顔絵がプリントされたTシャツもインターネット上に出回っている(インスタグラムより)拡大「エッグボーイ(EGG BOY)」の似顔絵がプリントされたTシャツもインターネット上に出回っている(インスタグラムより)
 しかし、生卵をぶつけるという行為に対する批判はあったものの、エッグボーイを英雄視する動きは、世界で急速に広がりを見せている。

 彼の似顔絵がプリントされたTシャツがインターネットを通じて世界中で販売され、クラウドファンディングサイト「GoFundMe」には、訴訟に掛かる費用や「追加の卵」代として約640万円余りの寄付金が集まった。(※エッグボーイは、この資金を銃乱射事件の犠牲者に寄付する考えを示している)

 さらに、ツイッターやインスタグラムなどのSNS上では、「人種差別主義の議員に対して、オーストラリア政府以上の行動を示してくれた勇気に感謝します」など、移民に関する差別を助長する言動に立ち向かったことを賞賛する投稿や、フロリダで開催中の音楽フェスティバルへの無料チケットのオファー、さらには、アメリカの大統領になってくれとの投稿まで、彼の行動を賞賛する投稿は、枚挙にいとまがない。

 このように、極右や白人至上主義の台頭が叫ばれる一方で、世界では移民や難民の受け入れに対して寛容な左派系の人々の結束が強いことも注目すべき点である。

白人至上主義が高まるオーストラリア

 だが、ここで指摘したいのは、エッグボーイ事件が銃乱射事件が発生したニュージーランドではなく、お隣のオーストラリアで発生したという点だ。そもそも、オーストラリアでは近年、白人至上主義の高まりが、国内メディアでしばしば取り沙汰されている。

キャンベラにある豪州上院の議場にブルカをかぶって現れたワンネーション党のポーリン・ハンソン党首(写真:Gary Ramage/Newspix/Getty Images)拡大キャンベラにある豪州上院の議場にブルカをかぶって現れたワンネーション党のポーリン・ハンソン党首(写真:Gary Ramage/Newspix/Getty Images)
 古くはアボリジニの迫害に始まる「白豪主義」から「多文化主義」へと変容を遂げてきた歴史を持つオーストラリアだが、このところ右傾化した勢力の存在感が目立ち始めている。その代表格が、オーストラリアの極右政党「ワン・ネーション(One Nation)」だ。フランスの極右政党「国民戦線」や、オランダ自由党、「ドイツのための選択肢」(AfD)などと似た自国第一主義の立場を掲げ、過激な言動でしばしば話題を呼んでいる。

 同党のポーリン・ハンソン氏は「反イスラム」「移民排斥」を掲げ、過激な行動で注目を集めている。今年8月には、顔を全て覆う黒いブルカ姿で議場に登場し「治安を守るため、ブルカの着用を禁止しないか」と呼び掛け、議場内を凍りつかせた。

オーストラリアの極右グループの一員から、バーで嫌がらせを受けるイスラム系議員(向かって右)の写真。SNS上で拡散している拡大オーストラリアの極右グループの一員から、バーで嫌がらせを受けるイスラム系議員(向かって右)の写真。SNS上で拡散している
 11月初めには、メルボルンのバーで、イランからオーストラリアに移住したイスラム系の男性議員に極右団体のメンバーが近付き、「イランに帰らないのか?お前テロリストだろ?小さい猿め」などと汚い言葉でののしり、さらにその様子を動画に収めて自らSNS上で公開し、物議を醸している(動画は既に削除されている)。こうした極右の動きは、SNSを通じて急速に拡散している状況だ。

 だから、ニュージーランド・クライストチャーチのモスク銃乱射事件の犯人が、極右の思想に染まったオーストラリア人であったことは、改めて驚くべきことではなかった。

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筆者

海野麻実

海野麻実(うみの・まみ) 記者、映像ディレクター

東京都出身。2003年慶應義塾大学卒、国際ジャーナリズム専攻。”ニュースの国際流通の規定要因分析”等を手掛ける。卒業後、民放テレビ局入社。報道局社会部記者を経たのち、報道情報番組などでディレクターを務める。福島第一原発作業員を長期取材した、FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『1F作業員~福島第一原発を追った900日』を制作。退社後は、東洋経済オンラインやForbes、共同通信47Newsなどの他、NHK Worldなど複数の媒体で、執筆、動画制作を行う。取材テーマは主に国際情勢を中心に、難民・移民政策、テロ対策、民族・宗教問題など。現在は東南アジアを拠点に海外でルポ取材を続け、撮影、編集まで手掛ける。取材や旅行で訪れた国はヨーロッパ、中東、アフリカ、南米など約40カ国。