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田中均氏が語る、外交における「政と官」

外務省は外交政策を立案するよりも単に下りてきた指示を実現する省となったのか

田中均 (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

安倍内閣は外交専門家の補佐が十分なのか

 そのような「政と官」の共同作業的関係が近年大きく変わってきているように見える。

 特に安倍内閣においては官邸一強と言われるように首相のリーダーシップは強い。それが大きな結果を作る場合もある。例えば安倍内閣の下で取り組まれた新安保法制やTPPの交渉は安倍首相の強いリーダーシップがなければ可能ではなかっただろう。

 しかし懸念もある。

 米国やロシアなどの外交の形は頻繁な首脳会談で進められ、多くの場合、テ・タ・テと言われる通訳だけを入れた少人数の会談で進められている。これは日本の外交史上あまり例を見ない。

 テ・タ・テ会談も内容を知るべき人たちに共有されているのだろうし、民主主義的統治に反するなどというつもりはない。ただ、外交は国益をかけて各国がしのぎを削る訳で、国益を守るために十分な専門家の補佐が行われているのか、という点に不安を感じる。

 これは米国のトランプ政権について国際場裏で度々指摘されるところだ。

 例えば現在北朝鮮の非核化問題は米朝首脳会談によって進められてきているが、日本でよく聞かれた懸念は「トランプ大統領は国内政治状況が厳しい中で、功を焦って安易な妥協をするのではないか」といった事だった。新聞紙上でもベトナムの首脳会談ではボルトン国家安全保障担当補佐官やポンぺオ国務長官の補佐があり、結果的に合意を急ぐことはなかったという分析がされている。

何のために首脳会談を行うのか

 安倍首相が北朝鮮問題について「日朝首脳会談を行いたい」という意図を明らかにし、ロシアとの平和条約交渉の大筋合意を6月に、といった考え方や4島ではなく2島プラスアルファーで進めるといった趣旨が新聞紙上で伝えられている。

 そういう記事が出ると、総理の言は重く、「すでに根回しが行われているに違いない」と思うし、特に安倍首相という外交の経験の豊富な首相なので必ず実現するのではないかという期待を生む。仮に実現が困難という見通しがあっても、事務当局にすれば首相の方針と異なる選択肢を首相に上げる事すら躊躇してしまうのだろう。

拡大ロシアのプーチン大統領(手前左)と言葉を交わす安倍晋三首相=2018年9月12日、ロシア・ウラジオストク

 これらは全て私の杞憂かもしれない。現在、政府の中でどういう作業が行われているのか私は知る由もない。実は綿密に練られた戦略の下で、首相の述べたことを実現する手立てがすすんでいるのかもしれない。そうあることを願いたいが、有識者として現在の国際環境を観察していると、日朝首脳会談や日露平和条約が日本の方針に沿って実現するのは簡単ではない。

 外交は相手がある話であり、例えば現在のロシアを取り巻く環境がプーチンへの国内支持の低下をもたらし、また欧州と米国の両方向で安全保障に敏感となっている事情は、北方領土交渉には逆風となっていることも考えれば、大きな絵を描いていかなくてはならない。

 北朝鮮についても拉致問題だけに的を絞った交渉はむしろ拉致の解決を遅らせる事を認識しなければならないが、そのような議論は一切聞こえてこない。

 また欧州では問題意識が強いが、多国間主義から離れ、アメリカ・ファーストを掲げ二国間の取引を進める米国との関係をどう調整するのかは本質的な課題であるはずだ。何度も首脳会談を行うだけではなく、何のために行うのかの戦略も必要だ。

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筆者

田中均

田中均(たなか・ひとし) (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官(96-98)、在サンフランシスコ日本国総領事(98-2000)、経済局長(00-01)、アジア大洋州局長(01-02)を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、2005年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、2010年10月に(株)日本総合研究所 国際戦略研究所理事長に就任。2006年4月より2018年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、2019年11月10日刊行)、『日本外交の挑戦』(角川新書、2015年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、2009年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、2009年)など。

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