吉田徹(よしだ・とおる) 北海道大学教授
1975年生まれ。慶応義塾大学卒。東京大学大学院総合文化研究家博士修了。学術博士。専門は比較政治、ヨーロッパ政治。著書に『ミッテラン社会党の転換』(法政大学出版局)、『「野党」論』(ちくま新書)、『ポピュリズムを考える』(日本放送出版協会)、共編著に『ヨーロッパ統合とフランス』(法律文化社)、『政権交代と民主主義』(東京大学出版会)など。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
憲法改正に必要な国民投票。はたしてその意義は。世界のレファレンダムから見てみると
安倍晋三首相が憲法記念日に開かれた憲法改正を求める集会に寄せたビデオメッセージで、2020年に改正憲法を施行したい考えを示した。首相の悲願とされる憲法改正ははたして実現するのだろうか?しかし改正実現にはハードルが存在する。
憲法改正を考える際に踏まえておかなければならないのは、改正の実現には、衆参両院での三分の二以上の議員による発議に加えて、国民投票によって可決される必要があるということだ。
日本ではなじみの薄い国民投票だが、先進国においては国民投票によって憲法改正や条約の批准、その他の民意を問う機会が増えている=図参照(ちなみに、戦前の経験から憲法上に規定がないドイツではおこなわれていない)。ここではこうした国民投票や、議会の議決に依(よ)らないという意味で国民投票と類似する住民投票が何を意味するのか、そこでは何が大事なのかを提示してみたい。
国民投票や住民投票にかけられる争点は、実に多様だ。たとえば、アイルランドでは同性愛婚(2018年)が、カナダ・ケベック州やスーダン南部では独立をめぐって(それぞれ1992年、2011年)、イタリアでは脱原発(2011年)に関して、国民投票・住民投票によって審判が下されている。
こうした民意の審判についての評価も様々だ。EU残留・離脱をめぐり、2016年にイギリスで実施された国民投票は、現在にまで至る混乱から、正しい選択だったかどうか疑問視する意見が根強い。また、米軍普天間飛行場の辺野古移転の賛否を問うため、2月におこなわれた沖縄県民投票(住民投票)についても、実施の過程や結果の扱い方などをめぐり、議論すべき点は少なくない。
国民投票は、政治や民意を考える際に、果たして何を意味するのだろうか。