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今こそ考えたい「国民投票」のこと

憲法改正に必要な国民投票。はたしてその意義は。世界のレファレンダムから見てみると

吉田徹 北海道大学教授

OECD加盟国をみると……

 OECD加盟国に限ると、国民投票についての公的な規定がある国は10以上にのぼる。これらの国では、何が国民投票にかけられるかについて、様々な規定が存在している。憲法改正・国際条約、自治権・分権、法律・政策に対する是非が対象となることが多い。

 ちなみに、アイルランド、オーストラリア、韓国、デンマーク、スイスなどでは、憲法改正については、国民投票に必ず付すと決められている(義務的国民投票)。憲法を制定する権力を持つのは(民主主義である限り)主権者だけ、という考えからだ。日本の国民投票もこの部類に入るといえるだろう。

 一方、スペインやフランス、スウェーデンなどは、憲法を改正する際も、国民投票にかけることが義務付けられているわけではない(任意的国民投票)。さらにイギリスのように、国民投票の結果が法的な拘束力がない国もある。

 以上をまとめると、レファレンダムには、
①発議の主体(国民か議会か、あるいは両方か)
②対象(憲法、条約、政策)
③義務的か任意的か
④拘束力を持つか否か
⑤国家レベルか下位レベル(州など)か
といった五つの次元からなり、国によって制度や効果が大きく異なることがわかる。成立要件のハードル(投票率など)や、議会での議決と国民投票の順番などの条件を加えれば、その制度はさらに複雑になる。

 つまり、一口に国民投票や住民投票といっても、その制度設計や規定、文脈によって、意味合いや効果は違ってくるのだ。そうだとすれば、国民投票が良いか悪いかを問うこと自体、あまり意味がないだろう。

「ナシオン主権」と「プープル主権」

拡大 Sentavio/shutterstock.com
 このように単純ではないレファレンダムだが、ひとつだけ確実にいえることもある。それは、レファレンダムは、代表制民主主義と並ぶ民主主義の両輪のひとつであることだ。

 民主主義の歴史をさかのぼると、主権の発露には二つの経路が併存してきた。憲法学でいう、「ナシオン(国民)主権」と「プープル(人民)主権」だ。

 「ナシオン主権」は、近代の議会制民主主義の原型ともいえる考えで、ここで主権者は、国民の代表を通じてのみ、統治を実現していくというイメージとなる。つまり間接民主主義を基本とし、そこではエリート間の競争や討議、権力分立が重視される。

 これに対し、「プープル主権」は、古代アテネや(ルソーが考えたように)都市国家に原型が求められるもので、直接民主主義や主権者一人ひとりの参加が重視される立場とも言える。

レファレンダムの長所と短所

 この二つ民主主義の系譜に照らしてレファレンダムを眺めた時、その長所と短所が明確に浮かび上がってくる。

 「ナシオン主権」からみれば、

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筆者

吉田徹

吉田徹(よしだ・とおる) 北海道大学教授

1975年生まれ。慶応義塾大学卒。東京大学大学院総合文化研究家博士修了。学術博士。専門は比較政治、ヨーロッパ政治。著書に『ミッテラン社会党の転換』(法政大学出版局)、『「野党」論』(ちくま新書)、『ポピュリズムを考える』(日本放送出版協会)、共編著に『ヨーロッパ統合とフランス』(法律文化社)、『政権交代と民主主義』(東京大学出版会)など。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです