「勝者なき」統一地方選から見えてきた与野党それぞれの弱点と可能性
2019年05月01日
勝者はいったいどの政党なのか、判然としない。一つの方向に何かの強い風が吹いているわけでもなければ、完全無風とも言い切れない。行き場の定まらない奇妙な気流が、渦巻いているような感じがする。
それが、12年に一度、統一地方選と参院選が重なる2019年、「亥年選挙」イヤーの「春の陣」を振り返っての印象である。
自民党は統一地方選前半戦で行われた知事選で、唯一の与野党全面対決の構図となった北海道知事選を制したかと思えば、後半戦と重なった衆院大阪12区・沖縄3区補選はいずれも敗北。大阪府知事・大阪市長の「大阪ダブル選」や大阪12区補選に連勝し、脚光を浴びた維新だが、関西以外ではいまひとつ存在感を示せず、地域限定政党としての性格をいっそう強めたという見方もできる。
一方、安倍政権に対抗する野党は、野党共闘の枠組みを築いた北海道知事選で大敗。沖縄3区補選は野党系が勝利して面目を保ったが、立憲民主党と国民民主党に分かれた旧民進系の見せ場は乏しかった。議会選では、首都圏などの大都市部を中心に立憲の躍進がみられる一方、地方では民進組織を引き継いだ国民の底堅さが目を引き、2017年の党分裂の後遺症をきわだたせた観もある。
地方選や単発の国政補選は地域事情に左右されやすいのは事実だ。しかし、政党が有権者の支持動向にどのような影響を与えることができたのかを分析することは、各党ともに国政の一大決戦となる「夏の陣」に向けて戦略を練るうえでの必須の作業となろう。
「春は、どの政党にとっての『勝ち』なのか、よくわからない結果になる。すべては連休明けの状況次第だ」。選挙前に旧知の自民党関係者が予言していた通りの結果となった勝者なき「春の陣」。亥年の参院選は、統一地方選で地方組織が力を使い切り、自民が苦戦するというジンクスもある。地力にまさる与党も、油断は禁物というところだろう。
予断を持たないように意識しつつ、この間の調査データをながめながら、与野党のアキレス腱と可能性について探りたい。
投票率が低くなれば、当然、組織化されていない無党派層の影響力は限定的になる。政党の地力、すなわち「岩盤」の厚みを測るには適しているが、いまや全体の半数近くを占める最大勢力に発達した無党派層の重みが枠外に多く存在することは、常に意識しておかなければならない。
そこで、その無党派層がこの春の決戦でどう動いたかを、注目度が高かった北海道知事選、沖縄3区補選、大阪12区補選で朝日新聞社が行った出口調査の結果からピックアップしてみよう。
▽北海道知事選(投票率58.34%)
無党派層の59%が自公推薦の鈴木直道・前夕張市長へ、41%が野党系の石川知裕・元衆院議員へ→自公系・鈴木氏に軍配。
▽衆院沖縄3区補選(投票率43.99%)
無党派層の79%が無所属で野党系の屋良朝博氏へ、21%が自民の島尻安伊子・元参院議員へ→野党系・屋良氏に軍配。
▽衆院大阪12区補選(投票率47.00%)
無党派層の35%が無所属の樽床伸二・前衆院議員(旧民進党出身)へ、34%が維新の藤田文武氏へ、22%が自民の北川晋平氏へ、9%が「野党共闘」をアピールした無所属の宮本岳志・前衆院議員(共産党出身)へ→維新・藤田氏に軍配。
北海道は立憲の地力が比較的しっかりしていることで知られるが、道内の政党支持率をみると、それでも与野党の差は大きい。知事選の情勢調査にあわせて行った道内世論調査では、自民党27%、立憲9%、公明4%、共産4%。無党派層は5割超に及んでいた。
世論調査は投票に行かない有権者も対象に含むため、選挙結果とは隔たりがあるものだが、野党が自公を崩すためには、野党支持層を固めきり、自公支持層にも一部食い込み、無党派層を引きつけて投票所に足を運んでもらうしかない。しかし、今回の知事選で野党勢力はそれぞれの支持層すら十分に固められず、頼みの綱の無党派層でも後れをとった。
対照的なのは沖縄3区補選である。沖縄県内でも政党支持率のナンバーワンは自民党。ただ、沖縄3区内の世論調査では、自民16%、共産4%、社民4%、公明3%、立憲1%、国民1%、自由1%と既成政党支持層がかなり薄く、かわりに無党派層が7割と大きなかたまりを形成していた。
しかも、沖縄の無党派層は積極的に投票に行っていた。自民と公明がいくら自らの支持層を固められたとしても、これだけボリュームのある無党派層で差をつけられたら、ひとたまりもない。しかも争点は明確で、世論調査でも出口調査でも、投票の際に重視したのは「基地問題」が最多だった。自公にとっては、抜け出そうにも抜け出せない「アリ地獄」のような状態である。
北海道や沖縄とはまた違う独特な趣が感じられたのが、混戦となった大阪12区補選である。維新の強さは言を俟(ま)たないが、与野党ともに参院選では必須となる「自公共闘」と「野党共闘」における課題を抱えていると思う。
大阪で自公は府政野党である。全国の多くの地域で、野党が自公に勝つには、無党派層で優位に立つ必要があるのと同じように、大阪で維新に自公が打ち勝つためには、無党派層の獲得が不可欠な条件だった。もともと大阪の無党派層は、やや反維新よりの傾向があるからだ。
だが、自公×維新×旧民進出身×共 産出身の野党系という複雑な構図となったことで、反維新票は分散。自公候補が無党派層を味方に付けることができなかったことで、勝機は断たれた。それどころか、当日の出口調査をみると、自公支持層すらも7割に満たない歩留まりに終わっていた。
無党派層を奪われた勢いを受け、自らの支持層も崩れていくという現象は、自公が敗北するときの定型パターンである。大阪も沖縄も「地域の特殊事情」と総括する向きもあるが、鉄壁にみえる自公協力も、逆風にさらされるともろくも崩れていくということを示す事例として、一定の普遍性をもっているととらえた方がよいだろう。
だが、より大きな課題を突きつけられたと感じるのは、野党共闘のあり方である。そもそも大阪12区補選では、自公VS維新の激突にはじかれ、入り込む隙間も見つけられないまま、ゲームオーバーとなった。
「野党統一候補」をめざした宮本氏は衆院議員を辞職し、共産党公認ではなく無所属で立候補して、選挙運動でも「ホンキの共闘」をアピール。共産と自由が推薦したほか、自主投票を決めていた立憲や国民の国会議員、幹部らも応援や激励に駆けつけた。しかし、結果は最下位で、相対得票率は一桁にとどまった。
当日の出口調査では、野党支持層は少なからず旧民進出身の樽床氏に流出し、無党派層の支持は1割足らず。とりわけ目を引いたのは、夏の参院選で野党共闘を「進めるべきだ」と答えた層が5割超に達していたのに、そのうち宮本氏に投票したとの回答が10%にとどまったことだ。
今回の「春の陣」で見えてきたそれぞれの弱点は、「夏の陣」に続く共闘戦略の課題となる。国政野党が前面に立たずに、政策的争点を前面に掲げて、裏方として候補者を押し上げていく衆院沖縄3区補選をひとつの「共闘モデル」にしようとの呼びかけが、立憲や国民の幹部らから出ているのは、そうした問題意識の表れだろう。
夏の参院選のカギを握るのは、32ある1人区である。ここを与野党どちらがとるかで、「オセロゲーム」よろしく様相は一変する。ただ、自公にせよ、野党にせよ、共闘は勝つために必要な手段には違いないが、それだけで勝てるわけではない。無党派層の心をどうつかむのか。そのための政策とメッセージを練り上げ、それをどのように効果的に打ち出していくか。そこが、大型連休明けの大きな課題となる。
「カギを握るのは無党派層」。これは、平成時代の選挙を通じてずっと指摘されてきたことではある。しかし、ここでそれをあらためて強調するのは、野党第一党の支持率がかつてないほど低迷していることの裏返しとして、無党派層が過去最大級のレベルで高止まりしているからだ。
その無党派層における内閣支持率をみてみよう。
統一選前半戦直後に朝日新聞が行った4月の全国世論調査の内閣支持率は、支持44%、不支持32%。これを無党派層に限ってみると、支持23%、不支持39%と逆転する。財務省の公文書改ざんが発覚し、支持率が大幅に下落した2018年3月の調査にさかのぼると、全体では支持31%、不支持48%だったが、無党派層では支持12%、不支持58%と大きな差が開いた。
無党派層の性格として、全体よりも政権に厳しい視線を送る人が多いということができるだろう。野党のかわりに、無党派層のほうが「野党化」の傾向を強めているのだ。
だが、今のところ、
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