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「憲法尊重擁護義務」は平成で終わったのか(上)

“立憲主義の柔らかいガードレール”が無力化されたわけと日本国憲法の現状を検証する

倉持麟太郎 弁護士(弁護士法人Next代表)

「お願い」ベースの日本国憲法

 憲法の役割は、われわれ個人の自律と多様な生の構想の確保、国家権力への授権、その権力の統制、国家のあるべき姿を示すもの、など様々である。そのどれも排除されるべきものではないだろう。

 しかし、あくまで憲「法」(constitutional “law”)なのだから、法としての役割をどこまで果たしているかが検証されねばならない。法としての役割とは、自由や権利の基準(ライン)を設定・提示し、これを何らかの強制力によって担保する役割である。

 はたして日本国憲法は、これらの役割を果たしているのだろうか?

 以下に検討するが、結論を先に言えば、日本国憲法は「お願い」ベースでしか、そうした役割をはたすシステムを有していない。そして、その「お願い」は二者に向けられている。統治権力と、われわれ個人に対してだ。

国会・内閣の解釈に委ねられている憲法

拡大Zolnierek/shutterstock.com
 まずは、日本国憲法から統治権力への「お願い」について見ていきたい。ここでは、“統治権力による憲法違反を是正する手段”という観点から解剖していこう。

 政治部門の憲法違反を監視するのは、非政治部門たる「司法権(裁判所)」の役割である。日本国憲法も、81条で裁判所による一切の国家行為に対する違憲立法審査権を謳(うた)っている。

 日本国憲法には、裁判所において権利侵害からの救済を受ける手続的な権利として、裁判を受ける権利(32条)が規定されている。裁判手続きを利用して憲法問題を解決する際にネックになるのが、「誰か」の「具体的」な「権利侵害」がなければ司法権の発動を求められないという“事件性”の要件(裁判所法4条)というハードルである。

 すなわち、「裁判を受ける権利」が門戸を開いているのは、基本的には特定の「個人」に対する具体的な権利侵害の救済であり、それは日本国憲法第3章「国民の権利」という人権カタログの救済に対応している。

 一方、第4章(41条~)以降(及び第3章以外)のいわゆる「統治」の規定については、裁判を受ける権利を享受・行使する主体を原則的には観念できない。

 例えば、第3章「国民の権利」における表現の自由は、制限された表現主体に平等違反があれば、不平等な境遇にある当事者(特定の“誰か”)が訴え出ることができる。

 しかし、「統治」の規定にあっては、内閣がすべての法律の中身を政令で決める法律を制定し、「唯一の立法機関」(41条)である国会を無力化しても、法定の要件を満たした臨時国会の召集を無視しても(53条)、恣意的な解散権を行使しても(69条)、さらに進んで、象徴天皇制が途絶えるような制度設計を法定しても、これまでの政府解釈の限界を越えた安保法制を制定しても、いずれも具体的な誰か個人の権利を害していないため、原則として個人の名で提訴することはできない。

 これは、現行憲法では、「統治」に関して、「憲法が事実上国会・内閣の解釈に委ねられていること」を意味する。つまり、司法部門ではなく政治部門の憲法判断が最終的判断であり、われわれ主権者が、司法権を媒介して是正を求める手段は、原則的にはない、ということを意味する(宍戸常寿『司法のプラグマティク』〈法学教室322号2007〉参照)。(ただし、法律による一部機関訴訟は例外である)。

 このことの最たる表出が、「高度に政治性を有する国家行為」に関しては裁判所の判断を控えるとする、いわゆる「統治行為論」ではなかったか。ちなみに、前出の宍戸教授は、「統治行為という概念を消去すべきです」と発言をしているが(2018年11月27日付朝日新聞朝刊)、これは、統治に関する憲法判断を完全に司法に服せしめてこそ「法の支配」の貫徹であるという価値判断に根差した発言であろう。

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筆者

倉持麟太郎

倉持麟太郎(くらもち・りんたろう) 弁護士(弁護士法人Next代表)

1983年東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、中央大学法科大学院修了。2012年弁護士登録(第二東京弁護士会)。日本弁護士連合会憲法問題対策本部幹事、弁護士法人Next代表弁護士、慶応グローバルリサーチインスティチュート(KGRI)所員。ベンチャー支援、一般企業法務、「働き方」などについて専門的に取り扱う一方で、TOKYO MXテレビ「モーニングCROSS」レギュラーコメンテーター、衆議院平和安全法制特別委員会公聴会で参考人として意見陳述、World Forum for Democracyにスピーカー参加、米国務省International Visitor Leadership Programに招聘、朝日新聞『論座』レギュラー執筆者、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師(憲法)など多方面で活動。共著に『2015年安保 国会の内と外で』(岩波書店)、『時代の正体 Vol.2』(現代思潮新社)、『ゴー宣〈憲法〉道場』(毎日新聞出版)、著書に『リベラルの敵はリベラルにあり』(ちくま新書)がある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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