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「憲法尊重擁護義務」は平成で終わったのか(下)

尊重擁護義務を不断の努力で果たしてこられた天皇。憲法を裏切った権力と市民

倉持麟太郎 弁護士(弁護士法人Next代表)

権力の憲法尊重擁護義務と個人の不断の努力は表裏一体?

 99条と12条は合わせ鏡の表裏一体の規定である。だが、これまでわれわれはどこか他人任せだったり、自分が「気持ちの良い」言論及び価値空間のみに居ようとはしてこなかったか。自戒を込めて、そう思う。さらに言えば、「技術革新が起これば社会は良くなる!」「誰かヒーローがでてくれば政治は変わる!」という言説は、自分ではない「“誰か”がきっとよくしてくれる」という思考停止だ。

beeboys/shutterstock.com拡大beeboys/shutterstock.com
 なぜ、現在の政治状況に落ち着いているかといった文脈で、「現状維持」を望むという声が多いという指摘がある。しかし、野球選手が3割打ち続けるという「現状」を維持するために猛烈なトレーニングとメンテナンスが必要なように、「現状」を維持するためには、厳しい自己規律が求められる。何もせずに「現状維持」を望むことは、「現状維持」という名の地盤沈下にほかならない。

 それはわれわれの不断の努力の放棄であり、その結果としての立憲主義のガードレールの社会から霧消であり、それが憲法自体の規範力を低下させてきた。その結果、われわれ市民社会から権力の節度と緊張感が失われたのは否めない。

 「公」(公共性)は「私」からしか調達できない。多様でかつ神秘的な「私」が切り崩されていることに“いちいち”抗議しなくては、知らぬ間に「私」は掘り崩され、いずれ「公」の波に飲み込まれてしまう。結果として残るのは、「公共性」の調達先を失って緩み切った「公」である。

 このような事態においては、万人が抵抗し闘争しなければならないはずである。「公共性」という種をまき水を注ぐのは、私たち一人一人しかいないからだ。99条の「憲法尊重擁護義務」の規範としての力の源泉は、12条のわれわれ一人一人の「不断の努力」なのである。

憲法尊重擁護のため、不断の努力をされた天皇

日本国憲法の公布原本=国立公文書館蔵拡大日本国憲法の公布原本=国立公文書館蔵
 憲法尊重擁護義務が統治権力に蔑ろにされ、くわえて、われわれの「現状維持」という名のある種“リアリスティック”(プラグマティック?)な無関心(ニヒリズム)による不断の努力の怠りは、日本国憲法に憲法違反状態を是正する機能が欠如していることと相まって、すっかり日本国憲法とこれを支える“立憲主義の柔らかいガードレール”を無力化してしまった。

 そんな中、憲法を尊重擁護するため、まさに不断の努力をされている存在がある。

 「平成」の時と名を背負った今上陛下である。

 憲法99条は、憲法尊重擁護義務を負うものとして、まず「天皇」を挙げる。では、今上陛下は、どのように憲法を尊重し、擁護したのであろうか。今上陛下のふるまいは、平成の世が終わっても参照すべき、日本国憲法の「憲法尊重擁護義務」及び個人の「不断の努力」を提供する。

 以下では、今上陛下のご譲位についての「おことば」に関する憲法学者の石川健治・東京大学教授の議論を紹介しながら、憲法尊重擁護義務と本来その憲法の名宛人の一人であるはずの権力主体の不断の努力について、検討したい(以下「」発言部分は、石川健治・姜尚中「対談 象徴としての天皇と日本国憲法―今上天皇の「退位」を巡る考察―」『すばる』40巻1号(2018)の石川発言である)。

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筆者

倉持麟太郎

倉持麟太郎(くらもち・りんたろう) 弁護士(弁護士法人Next代表)

1983年東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、中央大学法科大学院修了。2012年弁護士登録(第二東京弁護士会)。日本弁護士連合会憲法問題対策本部幹事、弁護士法人Next代表弁護士。ベンチャー支援、一般企業法務、「働き方」などについて専門的に取り扱う一方で、TOKYO MXテレビ「モーニングCROSS」レギュラーコメンテーター、衆議院平和安全法制特別委員会公聴会で参考人として意見陳述、World Forum for Democracyにスピーカー参加、米国務省International Visitor Leadership Programに招聘、朝日新聞『論座』レギュラー執筆者、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師(憲法)など多方面で活動。共著に『2015年安保 国会の内と外で』(岩波書店)、『時代の正体 Vol.2』(現代思潮新社)、『ゴー宣〈憲法〉道場』(毎日新聞出版)、著書に『リベラルの敵はリベラルにあり』(ちくま新書)がある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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