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「憲法尊重擁護義務」は平成で終わったのか(下)

尊重擁護義務を不断の努力で果たしてこられた天皇。憲法を裏切った権力と市民

倉持麟太郎 弁護士(弁護士法人Next代表)

象徴天皇が先細りしていく制度設計

拡大東京大学法学部教授の石川健治さん
 今上陛下は、日本国憲法1条にいう「象徴」として生きることを純粋に求められ、ご自分でもそれを追求された存在であった。

 しかし、石川教授は、逆説的ではあるが、「憲法1条のいう「象徴」であるために、日本国憲法が用意した舞台は、憲法7条にある10項目の国事行為しかな」く、しかもその多くが「国民に見えないところで行われる仕事」であるとし、「これではあまりにも舞台が狭過ぎて、国事行為だけやっていたのでは象徴性が失われる、というジレンマに陥」ると指摘する。「日本国憲法の象徴天皇制は、そのままでは象徴としての天皇が先細りしていく制度設計になっている」と。

 国民に見えない儀式や文書の認証だけでは、「象徴性が弱まり、システムとしての象徴天皇制がもちこたえられない」。とすれば、「1条が想定する象徴としての在り方を、国事行為とは別立てで目指すことにな」り、「象徴性の不足を埋めるために、『象徴としての行為』を自らの地道な努力で積み上げてこられた」結果が、現在の陛下のありようになったという。

 また、生身の人間を象徴と設定した現行制度において「代行不能の象徴的行為には、それを担う天皇の身体的・肉体的限界がありますから、退位システムを予めビルト・インしておかなければ象徴天皇制は持ちこたえられない」ことから、退位システムを備えていないのは憲法の不備であると言わざるを得ない、とする。

象徴天皇制の完成形をつくった今上陛下

 権力分立は、その名のとおり、権力を拮抗させるプロジェクトであるから、「国家における遠心力を働かせる装置」である。「三権分立してしまったら、ばらばらになるのが自然」だが、現実にはばらばらにはなっておらず、統合作用が働いている。我が国では“憲法価値を体現した天皇制”という意味的統合作用を担ったのが、今上陛下であった。私見では、象徴天皇制は、この統合作用と同時に、俗世の権力を“けん制・抑止する権威”という日本に特殊なパワーバランスの保持を構成してきたとみている。

 石川教授は、このような「「天皇」という装置」について、抑圧的作用の危険を指摘する一方で、「非常に豊かな包摂力のある装置」であるとも評価し、今上陛下が象徴的行為として行われてきた様々な行為について、「天皇に期待される象徴とは一体何なのかと考えると、おのずから決まってくるはずなので、その点では、ほとんど非の打ちどころがないような選択を、今の天皇はしてこられたと思いますね。」と言う。そして、「次の代以降の天皇が、憲法の中で与えられた適合的な役割を果たそうということになると、結局は、ほぼ今上天皇と同じようなことになるのではなかと思っています」として対談は締めくくられる。

 石川教授をして、憲法適合性の観点から「非の打ち所がない」と言わせしめた今上陛下の言動は、まさしく「憲法尊重擁護義務」のお手本とも言って過言ではない。と同時に、現行憲法において「象徴天皇制」を憲法適合的に存続させる行動様式は今上陛下のそれそのものであり、今上陛下のふるまいは象徴天皇制の完成形であると断言できるのではないだろうか。

北海道地震の被災者に声を掛ける天皇、皇后両陛下=2018年11月15日、北海道厚真町の総合ケアセンターゆくり拡大北海道地震の被災者に声を掛ける天皇、皇后両陛下=2018年11月15日、北海道厚真町の総合ケアセンターゆくり
 今上陛下が、被災地、沖縄及び福島、ハンセン病施設、戦地など、国内外を問わず、日本社会の“痛み”が残る地に足を運ばれ、耳を傾けたのは、ある種「能動的」象徴像ともいえる。これは、禁じられた政治権能行使(憲法4条)とのギリギリのバランスの中で、より憲法に適合的な国家権力で試みられた、まさに立憲主義の柔らかいガードレールを自ら構築・実践された稀有な例と言っていいだろう。

 本稿のタイトルを「『憲法尊重擁護義務』は平成で終わったのか」とした所以(ゆえん)はここにある。

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筆者

倉持麟太郎

倉持麟太郎(くらもち・りんたろう) 弁護士(弁護士法人Next代表)

1983年東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、中央大学法科大学院修了。2012年弁護士登録(第二東京弁護士会)。日本弁護士連合会憲法問題対策本部幹事、弁護士法人Next代表弁護士、慶応グローバルリサーチインスティチュート(KGRI)所員。ベンチャー支援、一般企業法務、「働き方」などについて専門的に取り扱う一方で、TOKYO MXテレビ「モーニングCROSS」レギュラーコメンテーター、衆議院平和安全法制特別委員会公聴会で参考人として意見陳述、World Forum for Democracyにスピーカー参加、米国務省International Visitor Leadership Programに招聘、朝日新聞『論座』レギュラー執筆者、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師(憲法)など多方面で活動。共著に『2015年安保 国会の内と外で』(岩波書店)、『時代の正体 Vol.2』(現代思潮新社)、『ゴー宣〈憲法〉道場』(毎日新聞出版)、著書に『リベラルの敵はリベラルにあり』(ちくま新書)がある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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