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沖縄県民投票と基地問題を世界はどう見ているのか

安全保障だけでなく民主主義、環境、人権といった世界の「共通語」で語られる沖縄問題

星野英一 琉球大学名誉教授 同大島嶼地域科学研究所客員研究員

辺野古移転に抗議し、 「ジュゴンを守れ、海を守れ」と書かれた横断幕を掲げて声をあげる参加者=2019年4月22日、ニューヨーク 
拡大辺野古移転に抗議し、 「ジュゴンを守れ、海を守れ」と書かれた横断幕を掲げて声をあげる参加者=2019年4月22日、ニューヨーク

ハッキリ聞こえた辺野古反対の沖縄の声

 玉城デニー知事が抜けた穴を埋める衆院3区補選(4月21日投開票)では、玉城知事を支える「オール沖縄」の後継候補屋良朝博氏が、自民公認、公明・維新の推薦で、元沖縄北方担当相の島尻安伊子氏を、7万7千票対5万9千票で破り、初当選した。玉城知事の誕生(昨年9月)、県民投票の結果(今年2月)の流れに乗ったうえでの勝利といえる。

 紆余曲折の末、実現した辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票には、有権者の52.5%(60万5千人)が参加し、投票総数の約72%が反対票だった。この43万4273票は、玉城デニー知事を誕生させた39万6632票を上回っており、知事選で玉城知事に投票しなかった人たちも「反対」に「マル」をつけたかたちだ。さらに全市町村で反対が多数となった。沖縄の声は誰の耳にもハッキリと聞こえたはずだ。

 だが、安倍晋三首相は「全力で対話を」と言いながら、「粛々」と工事を強行し、駐日米大使も「辺野古が唯一」を繰り返す。沖縄の声が聞こえないふりをするのに懸命だ。本土のメディアも、もう県民投票のことなど忘れ去ってしまったかのようだ。

 本稿では、まずこの県民投票を海外のメディアがどう報じたのか振り返ることで、辺野古米軍基地をはじめとする沖縄の基地問題について、国際社会がどうみているかをつまびらかにしたい。さらに、世界の有識者やNGO、国連がこの問題をどう見ているかも概括したい。辺野古基地推進・反対の対立のなかで、硬直化しているようにみえる辺野古の基地問題への視点を広げ、世界共通の言葉で考え直す契機になればうれしい。

「民意が明示された」と報じたワシントンポスト

 県民投票に関する海外メディアの報道について、沖縄タイムスの米国特約記者・平安名純代氏は、「埋め立てに反対する民意が明示されたなどと報じるメディアがある一方、新基地建設を進める日本政府の方針を強調する報道も目立った」と要約している。

拡大Eugene Ga/shutterstock.com
 「民意が明示された」の代表は米紙「ワシントン・ポスト」(2月24日、In Japan’s Okinawa, voters deliver a resounding no to new U.S. military base)だろう。沖縄への基地の集中と騒音、事故、犯罪などの基地被害にも言及する一方、基地建設の環境への負荷にも触れ、安倍政権が示された民意に耳を傾けていないと指摘している。

 1996年の県民投票や今回の県民投票の実施や選択肢など細かな点も押さえて、「沖縄の有権者は県民投票で新たな米軍基地の建設に明確な拒否を示し、日本政府と在日米軍に新たな頭痛の種をもたらした」とし、最後は菅官房長官のフラストレーションで締めくくっている。

 「民意が示された」とまでは述べていないが、米軍準機関紙「星条旗」(2月24日、Okinawa voters say no to US base relocation plan in prefecture-wide referendum)は、日本政府が沖縄の一貫した反対にも拘わらず、このプロジェクトを推し進めていることを指摘し、投票結果が日本政府にとって問題をさらに複雑なものにしたと述べている。

 安倍首相の「我々は長い間沖縄の人びとと対話してきたし、これからも理解を求めていく」との発言を引用しているが、海兵隊事務所や沖縄防衛局からはコメントを得られなかったとの記述を並べているためか、首相発言が軽々しく聞こえてくる。岩屋防衛相の戦略的重要性の指摘を紹介しつつも、玉城知事の「辺野古が唯一の選択肢との考えを再検討すべきだ」との発言で締めくくっているため、それが全体の論調に影響を与えている。


筆者

星野英一

星野英一(ほしの・えいいち) 琉球大学名誉教授 同大島嶼地域科学研究所客員研究員

1953年、東京都生まれ。上智大学外国語学部卒業、成蹊大学法学政治学研究科修了、デンバー大学国際学大学院修了。琉球大学短期大学部助教授、法文学部教授、東京女子大学教授、琉球大学人文社会学部学部長を経て現職。専門は国際関係学、国際政治経済論。著書に『沖縄平和論のアジェンダ』(法律文化社、共著)、『Debating Human Rights』(Rutledge、共著)、共編著に『Self-determinable Development of Small Islands』(Springer)等。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです