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元号を否定しない私が令和の使用を拒否するワケ

平成の危機的状況は何も変わらないのに「バンザイ!」を叫ぶお手軽な社会でいいのか

斎藤貴男 ジャーナリスト

国威発揚イベントとしての「令和」フィーバー

明治150年記念式典で式辞を述べる安倍晋三首相=2018年10月23日、東京都千代田区の憲政記念館拡大明治150年記念式典で式辞を述べる安倍晋三首相=2018年10月23日、東京都千代田区の憲政記念館
 そして今、司馬史観を最も己に都合よく活用した代表的な人物が、政権を担っている。彼は国会での演説や答弁、年頭所感などで幾度となく、明治礼賛とセットで“強い日本”をと訴える号令を繰り返し、昨年の“明治150年”キャンペーンに、“明治100年”ではさほどでもなかった帝国主義の称揚めいた企図を漂わせた。

 今回の「令和」フィーバーもまた、その延長線上にある国威発揚イベントであると断じて差し支えない。

 1979年に施行された元号法では、元号は政令(内閣が制定する命令)によって定められることになっている。「昭和」が「平成」となった際、だからといって前面には出ようとしなかった竹下登首相(当時)とは対照的に、安倍首相は改元を政治的に利用し尽くした。

 新元号の発表直後に行った記者会見で、「令和」は日本の「万葉集」から採られたと特に強調。近年の中国人や韓国人に向けられる差別や憎悪に満ちた言説と表裏一体の“日本スゴイ”アピールばかりを述べた後の質疑では、元号の話題がいつの間にか“働き方改革”や“一億総活躍社会”など、自らの政策の自画自賛にすり替えられていた無惨が記憶に新しい。

「令和」決定に深く関与した安倍首相

 元号は中国の古典を典拠とするのが伝統だ。国書(和書)からの採用は史上初だが、そう仕向けたのは安倍氏に他ならなかった。かねて「国書からが望ましい」とする旨の発言を重ねていたのは周知の事実で、その線に沿った案がいくつも出されていたが、最近の報道によると、安倍氏の関与は、そんなことだけで済んではいなかったようである。

拡大中西進さん=2019年3月24日
 4月30日付の朝日新聞朝刊が、新元号決定まで1カ月余に迫った2月末、政府の要領に基づき菅義偉官房長官の下で進められていた絞り込み作業に安倍氏が加わり、十数案あった候補のいずれにも難色を示したエピソード。および、彼の指示を受けた官房副長官が、万葉集研究の第一人者である国文学者の中西進氏に考案を依頼し、かくて提案された「令和」を安倍氏が「万葉集っていうのがいいよね」と気に入ったため、これを本命とする議論に移ったという経緯を報じた。

 見事なスクープだと舌を巻いた。「令和」が安倍氏の肝いりで、有識者会議「元号に関する懇談会」でも誘導が行われたらしいという、すでに広く流布された情報を考え合わせると、私自身の「令和」に対する態度はおのずと決まってくる。

「“令を下す”の令です」と言い換えたNHKラジオ

 しばしば指摘されているように、「令」の字が「命令」の「令」であることも決定的だ。「令」には「うるわしい」の意味もあると言われても、目下の政治や社会であれば、「命令」の「令」が真っ先に連想されるのは自然の成り行きで、にもかかわらず「令」を持ち出した神経が許せない。

 海外のメディアでも取り沙汰されているようだが、NHK第一ラジオが当初は「年令の令」と伝えておきながら、「齢」の字との誤解を避けようとしたのか、7分半ほどしてからわざわざ「正しくは“令を下す”の令です。“命令”などの令です」と言い換えていたのが印象深い。

 友人に教えられて放送内容を確認したが、近年におけるNHKの報道姿勢に照らせば、これは単なる言葉の綾(あや)ではない。NHKはリスナーに、政権の意向を忠実に“下げ渡した”のに違いないと理解せざるを得なかった。

 安倍氏個人に私物化され、あまつさえ「命令」の「令」を構成要素とする元号など、絶対に認められない。などと一人で吠えたところでどうしようもないにせよ、ともあれ私は、「令和」の使用を全面的かつ永久に拒否することを、ここに誓う。


筆者

斎藤貴男

斎藤貴男(さいとう・たかお) ジャーナリスト

1958年、東京生まれ。新聞・雑誌記者をへてフリージャーナリスト。著書に『決定版 消費税のカラクリ』(ちくま文庫)、『ちゃんとわかる消費税』(河出文庫)、『戦争経済大国』(河出書房新社)、『日本が壊れていく――幼稚な政治、ウソまみれの国』(ちくま新書)、『「東京電力」研究──排除の系譜』(角川文庫、第3回「いける本大賞」受賞)、『戦争のできる国へ──安倍政権の正体』(朝日新書)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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