牧野愛博(まきの・よしひろ) 朝日新聞記者(朝鮮半島・日米関係担当)
1965年生まれ。早稲田大学法学部卒。大阪商船三井船舶(現・商船三井)勤務を経て1991年、朝日新聞入社。瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金(NED)客員研究員、ソウル支局長などを経験。著書に「絶望の韓国」(文春新書)、「金正恩の核が北朝鮮を滅ぼす日」(講談社+α新書)、「ルポ金正恩とトランプ」(朝日新聞出版)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
米朝協議停滞で「開発成果」を確認できる時が来た。はたして米空母を攻撃できるのか?
北朝鮮の労働新聞(電子版)は5月5日、金正恩朝鮮労働党委員長が視察した5月4日の軍事演習の写真15枚を公開した。そこには日本海に向けて発射された300ミリ多連装ロケットと見られる兵器のほか、移動式発射台から垂直に打ち上げられるミサイルが映っていた。
韓国の軍事関係筋によれば、この機体は北朝鮮が2018年2月8日の軍事パレードで公開したロシアの短距離弾道ミサイル「イスカンデル」を独自に改良した機体である可能性が高いという。
イスカンデルは、ロシアが2000年代に実戦配備した。やはり、旧ソ連のミサイルを北朝鮮が改良したもので、2007年から2013年ごろにかけ、たびたび試射を繰り返していたKN02を発展させた兵器ともされる。
注目すべきは、労働新聞がこの北朝鮮版イスカンデルとも言えるミサイルを「戦術誘導兵器」と呼んだ点だ。
朝鮮中央通信によれば、金正恩氏は4月17日、国防科学院が行った新型戦術誘導兵器の試射を視察している。当時、北朝鮮メディアは「特殊な飛行誘導方式と威力ある弾頭部の装着によって高評価を受ける兵器」と説明した。おそらく、5月4日の試射の前段階となる性能実験だったのだろう。
では、北朝鮮が独自に改良したイスカンデルを「戦術誘導兵器」と強調する理由はどこにあるのだろう。
北朝鮮の関係筋によれば、北朝鮮版イスカンデルは、誘導装備を導入した新型の地対艦弾道ミサイルだという。
北朝鮮は2018年11月16日、「先端戦術兵器の実験を行った」と発表していた。当時、私はこの実験が「地対艦誘導ミサイルのシミュレーションだった」と報じた。海上からの侵攻を防ぐ狙いがあり、正恩氏が視察するなか、海上を移動する目標に、地上から発射したミサイルを命中させるシミュレーションを行ったという。朝鮮中央通信は兵器の詳細は明かさず、「領土を鉄壁に防衛して軍の戦闘力を著しく強化する」と説明していた。
すなわち、北朝鮮は昨年11月に北朝鮮版イスカンデルのシミュレーションを実施。今年4月の部分的な試射を経て、5月4日に実際の発射実験を行ったことになる。