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保坂展人から野党へ 与党支持者を取り込むコツ

「せたがやYES!」で制した世田谷区長選。勝因は「与野党対決」の枠を超えたこと

保坂展人 東京都世田谷区長 ジャーナリスト

普段は「良くなった」という声はあまり届かない

 自転車に乗った40代の女性は「あなたが区長になってから変わりましたよ。良くなりました」と言ってくれました。「どこが良くなったんだろう」と思って「どんなところですか」と聞くと、しばらく考えてからこんな言葉が返ってきました。

 「子どもが通っていた学校が明るくなって、のびのびしてきたことでしょうか」

 想像もしなかった点をあげてくれました。お子さんが小学校2年生まで前区長の任期で、3年生になってから私に代わると学校の空気が一変したというのです。

 「上から押しつけるのではなく、ひとりひとりの子どもの声を聞いてくれるようになり、笑顔が増えたと感じました」

 私は、先にあげたメール等で日常的に区民の声に接していますが、その多くは個別具体的な困り事であったり、行政の不備な点を指摘しての批判だったり、いささか感情のこもった厳しい叱責の声が続きます。普段は「良くなっています」という声はあまり届かないのです。

 選挙演説をしていると「区長がいる」と、「アルコール依存症の夫の扱いに悩んでいます。どうにか別居したいんですが…」という相談や、「あなたのことは信頼するけど、目の前の通りの違法駐車は何とかならないか」という苦情もありました。

 ただ、多くは8年間の区政に対しての肯定的な評価でした。普段は聞くことが難しい91万区民の生活実感や、希望や、熱意に触れた体験は、この先に大きな政策選択をする時に脳裏をよぎることになるだろうとの予感があります。

拡大政策フォーラム「せたがやD.I.Y道場」の参加者ら。保坂展人世田谷区長(左から2人目)も加わった=2017年9月16日、同区の梅丘パークホール

「せたがや、YES!」「ほさか、YES!」

 4月21日(日)午後9時すぎ、世田谷区長候補である私の選挙事務所にタクシーで到着すると、車を降りる前に事務所内から「ワーッ」という歓声があがっていました。どうやら、NHKの開票速報番組で世田谷区長選挙の「出口調査」が画面に出たとたん、相手候補を大幅にリードしていることが分かった瞬間でした。

 選挙事務所は、熱気に包まれていました。「出口調査」のグラフで相手候補を大きくリードしていて、「きわめて優勢です」と出たことで勝利が間近に見えてきたのです。それでも、「当選確実」が出るまでの間に、テレビの画面を見ながら落ち着かない時間を過ごしました。

 応援団長の下平憲治さんが、「当確が出たら、万歳ではなく、この選挙戦から生まれたキャッチフレーズで掛け声をかけよう」と提案。「せたがや、YES!」「ほさか、YES!」と2度繰り返す練習をしてみようということになりました。

 つまり、リハーサルです。「当選確実が出ました」と大声で下平さんが叫んで音頭を取って、「せたがや、YES!」「ほさか、YES!」と2度繰り返して「練習はうまくいった」と思った次の瞬間でした。テレビ画面に「世田谷区長に保坂展人氏当選確実」とテロップが浮き上がってきたのです。それから、いきなり本番となり大騒ぎになりました。

 統一地方選挙の開票状況を伝えるNHKの番組で、この時の選挙事務所の模様は全国に放送されたようで、沖縄から、仙台から、高知から、金沢からと全国各地から次々とお祝いメールが届きました。

 こうして、私は3回目の当選を決めました。

カンパとボランティアで

 投票数は、18万9640票で、一方の三井みほ子さん(自民党推薦)は12万0898票でした。有権者総数は74万人で、投票率は43.02%、投票総数は32万266票でした。

 本来はもっと多くの人が投票してしかるべきですが、それでも2011年からの過去3回の世田谷区長選挙では、低いながらも投票率は微増しています(41.76%→42.83%→43.02%)。

 振り返ると、2011年、2015年と今回まで3回にわたって政党推薦を受けず、草の根市民に支えられた選挙でした。それにしても、91万都市・74万有権者に政策実績を届けるのは並大抵のことではありません。

 この選挙をカンパとボランティアで戦い抜くことが出来たのは、心意気に感じて集まってくれた皆さんの知力、労力、資力のおかげでした。私も、8年前の区長選への初挑戦と同様に緊張感を持ちながら、総力で戦いました。

 戦い終えて、指折り数えてみると9回目の選挙でした。衆議院5回(内当選3回)、参議院比例区1回(落選)、世田谷区長選挙3回(当選3回)と、すべての選挙に市民ボランティアが手弁当で結集して懸命の応援してもらいました。2003年の衆議院選挙で落選した直後、三軒茶屋の交差点に立っていると目の前に走ってきた車が止まり、女性が出てきて「あきらめちゃダメですよ。必ず再起して下さいね」と握手していったことも記憶に残っています。

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筆者

保坂展人

保坂展人(ほさか・のぶと) 東京都世田谷区長 ジャーナリスト

宮城県仙台市生まれ。教育問題などを中心にジャーナリストとして活躍し、1996年から2009年まで(2003年から2005年を除く)衆議院議員を3期11年務める。2009年10月から2010年3月まで総務省顧問。2011年4月より世田谷区長(現在3期目)。 著書:「相模原事件とヘイトクライム」(岩波ブックレット)、「脱原発区長はなぜ得票率67%で再選されたのか?」(ロッキング・オン)、「88万人のコミュニティデザイン 希望の地図の描き方」(ほんの木) 近著に「〈暮らしやすさ〉の都市戦略 ポートランドと世田谷をつなぐ」(岩波書店2018年8月)、「子どもの学び大革命」(ほんの木2018年9月)他

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