メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

MMT(現代貨幣理論)なんてあり得ない!

いま話題の経済理論。本当ならあまりに都合がいいけれど……

米山隆一 前新潟県知事。弁護士・医学博士

財政の現状を知らないナンセンスな意見

 ちなみに日銀の国債の直接引き受けは、日銀法で禁止されていて、法改正をしない限り出来ないのですが、それはひとまずおいて、最後の6、「財政赤字がインフレを招いたら、財政赤字を止めればいい(やめる事が出来る)」について考えてみましょう。

 まずもって、MMTでは基本的に財政赤字においては、日銀が発行された赤字国債を直接引き受けるか買い取るかしますので、財政赤字を続ける限り通貨供給量は増え続け、どこかで必ずインフレが発生します。これはMMT論者も認めています。またインフレは富の分配の不公正や「インフレ税」の効果をもたらして人々の効用を下げるので、一定のレベルを越えたインフレ(恐らく5%以上のインフレ)は放置すべきではないことも認めています。

 そのため、インフレが発生したら何とか対処しなければならないのですが、ここでMMT論者は、「例えば『インフレ率2%となったら財政赤字を終了する』と言う法律を作ればいい。そうすれば民主主義的にインフレを退治できる」という6にそった主張をしているわけです。

 これは本当でしょうか?

 私は、「あまりに財政の現実を知らないナンセンスな意見」と一刀両断にさせていただきたいと思います。

予算は急には変えられない

hxdbzxy/shutterstock.com拡大hxdbzxy/shutterstock.com
 予算は、国なら総理大臣-各官庁が作成して国会に提出(県においては知事―県庁の職員が作成して議会に提出)します。傍から見ると、それこそ民主主義で選ばれた総理大臣(知事)が、出来上がった予算を上から出してくるのだから、前年まで赤字であっても、次の年から黒字予算を作るのは簡単に見えるかもしれません。

 しかし予算は決して一枚の紙ではなく、あの事業に○万円、この団体に○万、あっちの工事に○万円、こっちの補助金に○万円という、何千何万という「お金を払う予定」の集合体です。そしてその「お金を払う予定」は、何千何万という相手にとって、大事な大事な「お金を貰う予定」になります。

 予算の作成は半年以上をかけて、あれやこれやの団体や個人の主張を聞き、利害調整をした末にできるもので、例えば12月にインフレ率が2%になったからと言って、次の年の予算をいきなり変えられるようなものではありません。どう頑張っても対応できるのは次の次の年の予算になり、インフレは少なくとも1年以上放置するしかありません。

 そのうえ、例えば昨今話題の保育園・幼稚園などを例にとると、補助金はこういった施設の運営の非常に大きな割合を占めており、保育園・幼稚園では、去年あった予算は今年もあるだろうことを前提に、保育士さんなどの職員さんが雇用され、児童が園に通っています。「インフレ率が2%になった」からと言う理由で突然この補助金を切れば、保育士さんはじめとする職員さんは軒並み失業、児童も通う園がなくなって、大パニックになってしまいます。

 もちろんこれには、「そういう影響がある予算は残して、そういう影響がない予算-公共事業等を削ればいい」と言う反論があるでしょうが、予算はどれも大事なものです。公共事業だって、去年あった程度の額の工事は今年もあるものと思って、土木建築会社は人を雇い設備を保有します。「インフレ率が2%になった」と言う理由で突如これを削減したら、やはり倒産と失業のオンパレードで大パニックでしょう。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

米山隆一

米山隆一(よねやま・りゅういち) 前新潟県知事。弁護士・医学博士

1967年生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学系研究科単位取得退学 (2003年医学博士)。独立行政法人放射線医学総合研究所勤務 、ハーバード大学附属マサチューセッツ総合病院研究員、 東京大学先端科学技術研究センター医療政策人材養成講座特任講師、最高裁判所司法修習生、医療法人社団太陽会理事長などを経て、2016年に新潟県知事選に当選。18年4月までつとめる。2012年から弁護士法人おおたか総合法律事務所代表弁護士。

米山隆一の記事

もっと見る