野球人、アフリカをゆく(3)自衛隊が整備したグラウンドに現れた牛に背中を押され
2019年05月18日
「ジュバ大学で初めてのジャパンフェスティバルを開催するので、開会セレモニーにJICA代表で挨拶をしてもらえませんか?」
当地の日本大使館からこんな依頼が入ってきた。南スーダンに赴任して2週間がたった頃のことだった。
日本文化を紹介し、交流するこういったイベントは世界各地で日本大使館が主催して行うことが多いようだが、南スーダンでは初めての試みだという。日本の映画を上映したり、和食を提供したり、日本に関する英文書籍を図書館に寄贈する。その他、日本の文化である綱引き大会も行うらしい。
先の休日にグラウンドを見るために初めて入ったときは、予備門のようなところから、日曜日の誰もいない構内を、グラウンドに一直線に向かったので、目に入る景色が全然違った。茶系の石張りの壁面で覆われた校舎は、古びてはいるが長い歴史を感じさせた。ジュバ大学は、独立前の「スーダン共和国」の時代に創立された由緒正しい国立大学だ。
四半世紀以上前を思い起こせば、自分も大学生だったが、体育会野球部に所属しており、大学には練習の合間に学ラン(黒い学生服)で行っていた。最後までベンチ入りもできず、そのくせキャンパスライフもほとんど味わえず、冴えない大学4年間の思い出を、色で表せばやや暗めのグレー。こういう華やかなキャンパスライフは、いまだに憧れであり、ドキドキする。
学生が300人くらい収容できるホールがあり、そこに案内されるとVIPシートが用意されていた。教育大臣、日本国大使、ジュバ大学学長(正確には、学長は大統領で、副学長が実質的にトップ。ここでは便宜的に副学長を学長とする)、そして、JICA所長(私)。全員揃うと、それぞれの挨拶が始まる。驚いたことに、ほぼ満席。大学生の関心は高く、セレモニーは盛り上がりを見せて終わった。
あまり知られていないことだが、南スーダン人の平均身長は世界トップクラスだ。学長も身長は190センチ近くあるように見える。170センチ(若干サバ読み)の自分が並んで歩くと、まるで大人と子供だ。
「会場はサッカー場なんですね。先日グラウンドを見ましたが、とても整備されていて、きれいですね」
首が痛くなるくらい見上げて学長に話かけると、スリムなスーツ姿で歩く学長がやや背中を丸めて、にこやかに見下ろしながら言う。
「そうなんですよ。このグラウンドは、日本の自衛隊が整備してくれたんですよ」
えっ?自衛隊?
思いがけない言葉が出てきて、戸惑った。
これはよく知られていることだが、南スーダンには、独立から半年後の2012年初頭から日本の自衛隊施設部隊が派遣されていた。
ここは少し説明が必要になる。
ところが1回目の大規模な衝突が2013年12月に発生し、国内避難民の保護が必要になった。以降、国造り支援よりも、文民保護が主たる目的となった。
このUNMISSに、日本は自衛隊の施設部隊と司令部要員を派遣したのである。その規模350名。2017年5月に撤退するまで、その活動は続いた。いわゆる国連を通じた日本の国際貢献というものだ。
自衛隊の活動は南スーダンでは高く評価されており、主要幹線道路の整備事業などは市民生活にも大きな貢献となっている。(自衛隊の貢献の話を始め、南スーダンにおける日本の貢献については、紀谷昌彦前駐在大使の著書『南スーダンに平和をつくる~「オールジャパン」の国際貢献』(筑摩書房)に詳しい)
そういえば、あのグラウンドはよく整備されていた。石が少なく、平らで滑らか。雨が降ったときの排水まで考慮した造りになっていた。
さすが我が日本の自衛隊だ。
「自衛隊が整備した時に立てられた記念看板がありますよ」と親切な学長。よし、あとで見ておこう。
設営された日よけテントの中に入っていくと、またもやVIP席が準備されており、私は学長の横に座った。どうやら目の前のサッカー場で綱引き大会が行われるらしい。大使館の日本人スタッフの方々がサッカー場の中をせわしなく準備に動いている。
だが、肝心の選手たちが一向に現れない。
これはアフリカあるある、予定時間を超えて、ひたすら待ち時間が長いパターンだな。
ふとVIP席を見ると、日本大使が教育大臣と話し込んでるので、私も隣にいた学長に話しかけた。
座るとあまり目線の高さが変わらないのは、自分が短足だからでなく、学長の足が長いからだ。そういうことにしておく。
「一番向こう側の木の下ですよ。日本と南スーダンの国旗も描かれています」
と指さしながら学長が言う。
私はそれを目で探しながら、
「それにしてもいいグラウンドですね。ジュバ大学の整備後のメンテナンスがしっかりされているようですね」
とちょっと外交辞令で返す。
その時だ。
牛!
牛が出てきた。
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