メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

無料

前統幕長の言葉から探る「日米同盟の抑止力」

(上)「令和の国防」を安倍内閣で自衛隊制服組トップを4年半務めた河野克俊氏に聞く

藤田直央 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

拡大インタビューに臨む河野克俊・前統合幕僚長=5月9日、東京・築地。朝日新聞社

 話が進むにつれ、「やはり」という思いを強めた。「令和」初の米大統領訪日を前に行った、退任間もない河野克俊・前統合幕僚長(64)へのインタビュー。安倍内閣で自衛隊制服組のトップを4年半務めた元海上自衛官の証言は、「日米同盟の抑止力」という新たな概念に覆われていく「令和」の国防を浮き彫りにした。

延々3時間のやり取り

 インタビューは5月の連休明け、東京・築地の朝日新聞社で行った。制服を脱ぐ前と比べ気さくさは変わらないが、時間に余裕のできた河野氏とのやり取りは延々3時間。論点は、ともに自衛隊発足の1954年に生まれた安倍晋三首相との間合いから、中国・北朝鮮との対峙、日本の針路まで多岐にわたり、概要はすでに朝日新聞で報じている。

近づく政治と自衛隊 河野氏へのロングインタビュー

拡大2016年9月19日、安保法制が成立した後も国会前で反対の声を上げる人たち=朝日新聞社
 ただ、限られた紙幅で伝えきれなかった中で、私がこの場で特に丁寧に述べたいのは、今の国防方針の大枠は一体何なのかということだ。

 憲法論争も喧(かまびす)しかった安全保障関連法制が3年前に施行され、自衛隊の役割は大きく広がった。政府は外国に届きうる長距離巡航ミサイルを導入し、「いずも」型護衛艦を空母にして戦闘機を積めるようにすることも検討しており、戦後の「専守防衛」を超えかねない勢いを感じる。

 こうした動きはどういう考え方からなのか。それを引き出せないかと、河野氏に思いきって極論をぶつけた。「核武装」という選択肢だ。答えはこうだった。

 「核武装を国民は受け入れません。NPT(核不拡散条約)を脱退してやるとなると外交的にもマイナスだ。デメリットの方が大きい。アメリカに頼る選択肢が一番賢明じゃないか」

 続く言葉に、はっとした。

 「我々の戦略、自衛隊の戦い方は、米国の核抑止に依存するのが前提ですから」

「自衛隊は米国の核に依存」

拡大朝日新聞社
 この言葉は、当たり前に聞こえるかもしれない。米国が核兵器を使ってでも日本を守る姿勢を示すことで、日本への攻撃を防ぐ。唯一の戦争被爆国として非核三原則を掲げる日本に向けて、核大国の米国が差し出す「核の傘」だ。

 ただ、河野氏の言葉が重いのは、つい先日まで自衛隊の運用を担う制服組トップだった人物が、「核の傘」を「自衛隊の戦い方」の中に明確に位置づけて語ったことだ。それは、政府が数年前に言い出し、私が取材を続ける「日米同盟の抑止力」という概念に見事にはまるものだった。

 日米同盟において、日本防衛での役割分担は「盾と矛」と言われてきた。自衛隊が持ち、使える武力は、憲法との関係で「専守防衛」のための必要最小限とされる。持つ武器は「盾」のように攻撃をはね返すものにとどめ、敵国の本土を破壊できる「矛」のような武器は米国に任せることを基本とする考え方だ。

 ただ、米国は最強の「矛」である核兵器で日本を守ると言いつつ、核兵器を具体的にどう使うかについては、日本防衛に限らず詳しく語らない。一方で前述のように、日本は長距離巡航ミサイルや戦闘機を積む空母といった「矛」に使えるものを持とうとするようになった。

 今世紀に入り、日本は中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル開発といったリアルな事態への対応を迫られ、安全保障への国民の関心も高まった。そこで政府が使い出したのが「日米同盟の抑止力」という言葉だ。最近の防衛力増強や、自衛隊と米軍との連携強化、そして「核の傘」との関係を包摂する概念だが、あいまいな説明にとどまっている。

 河野氏がインタビューで話した、米国の「核の傘」を頂点とする「我々の戦略、自衛隊の戦い方」は、その「日米同盟の抑止力」をわかりやすく、時に赤裸々に語るものだった。そこをこれから、私の取材の蓄積と重ね合わせて述べていきたい。


筆者

藤田直央

藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)

藤田直央の記事

もっと見る