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前統幕長の言葉から探る「日米同盟の抑止力」

(上)「令和の国防」を安倍内閣で自衛隊制服組トップを4年半務めた河野克俊氏に聞く

藤田直央 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

北東アジアの新たな緊張

 理屈っぽくなるが、ごく簡単に説明する。

拡大沖縄県石垣市に属する尖閣諸島=2012年9月。朝日新聞社

 中国や北朝鮮は核戦力、通常戦力とも米国に圧倒的に劣るが、米本土に届く核ミサイルを中国は当時すでに持ち、北朝鮮は開発を進めていた。中朝がもし、こう考えたらどうだろう。

 ――我が国はロシアの前身である冷戦期のソ連のように米国と全面対決はしないが、我が国が米国を攻撃しない限り、米国は我が国の核ミサイルを恐れて北東アジアに介入しない。

 中朝は、「庭先」である北東アジアで軍の動きを活発化させかねない。

 ところが、米国は日本と安全保障条約を結んでいる。日本が攻撃されれば米軍は対処を迫られる。日本には米軍が極東の平和と安全のためにも使える基地もある。中朝が、米国は介入しないとふんで北東アジアで行った軍の活動が、日米安保条約発動の引き金となり、最悪の場合は核戦争にまで発展するかもしれない。

 あるいは、中朝がそんな厄介な日本列島をスルーして、太平洋へせり出してくるかもしれない。

 これが荒唐無稽な想定でないことは、その後の事態をみればわかる。

 中国は日本の2012年の尖閣諸島国有化に反発し、海空軍の動きが東シナ海で盛んになった。オバマ大統領が「尖閣は日米安保条約の対象」と明言したが、周辺で日中のにらみ合いは続く。その一方で、中国の海空軍は南西諸島を抜け、西太平洋まで出ていくようになった。

 北朝鮮は2006年以降、核実験と弾道ミサイル発射を重ねて能力を高め、大陸間弾道弾(ICBM)まで開発。その脅威は日本列島を超えて米国に及ぶようになった。17年にはトランプ大統領が、挑発をやめねば「破壊する」とまで語った。

拡大朝日新聞社
 つまり、北東アジアの不安定さが増す中で、米国が日本を守るために「核の傘」を掲げ続けることは大前提なのだが、それだけでは活発化する中国、北朝鮮の軍の動きを抑えられなくなってきた。また、不測の事態にいきなり米軍が対応すれば、かえって核戦争という最悪の事態への入り口となりかねない。そうならないよう、自衛隊が「日米同盟の抑止力」をいかに支えるかが問われるようになったというわけだ。

 日本側もすでに2009年の米議会諮問委員会で、米国に核兵器維持を求めつつ、「抑止とは日米一体の努力であり、日本はその信頼性に貢献する」と述べている。こうしたやり取りが、10年に日米の外務・防衛当局幹部による拡大抑止協議の発足へとつながる。そして、13年に同時に閣議決定された日本初の国家安全保障戦略と、改定された防衛政策の大綱に、「日米同盟の抑止力」という言葉が登場することになる。

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筆者

藤田直央

藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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