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女性が挑んだ「選挙戦改革」(上)

統一地方選の3候補を追って見えたもの

東野 真和 朝日新聞編集委員

埼玉県議選の立候補届出をすませSNSで発信する山田千良子さん=さいたま市大宮区役所拡大埼玉県議選の立候補届出をすませSNSで発信する山田千良子さん=さいたま市大宮区役所

枝野氏の地元で 県議候補の場合

 2月上旬、枝野幸男・立憲民主党代表のお膝元、さいたま市大宮区のマンション。ママを待ちわびた子どもたちが飛びついてきた。

 山田千良子さん(33)は、毎朝、駅前でのビラ配りに始まり、ポスターを貼って歩き、夜は有力支持者との食事会に。帰りが10時近くになり、遅くまで見てくれたベビーシッターに礼を言う。部屋の掃除も行き届かない。

 「こんな状態で、議員に立候補ができるだろうか。いや、だからこそ私が出なければ」。党の公認をもらうまで、逡巡した。立候補の最大の動機は、会社での待遇だった。大手メーカーに在職して10年。営業畑での成績は他に劣らない。なのに、産休・育休を取ったら、同期の男性社員と同じ昇進試験が受けられなかった。

 夫は単身赴任中。子供たちは任せっきりだ。「あなたは仕事をパートにして私がこのまま働いてもいい。育児を代われる?」と聞いた。あっさり「できない」と言われた。

 「世の中おかしい」。男女雇用機会均等法制定の中心的存在だった赤松良子・元文相が主宰する政経塾に通った。「女性にとって、戦後の参政権から始まり、今回の候補者男女均等法が3つめの大きな節目。バトンをひきつがねば」と思った。最初は、意中の人に立候補を促していたが尻込みされ、「あなたが出れば」と言われた。

 半年近く悩んだ。「幼い子を2人抱えた状態の私が出ていいのか?」「いや、今だからこそ、子育て世代の真剣な声を伝えられるはずだ」「子どもが思春期になったら出るのを反対されるかも」。今しかないと意思を固めた。人づてに聞いた立憲民主党の面接を受け、候補者予定者として内定した。ハードルは次々と見えてきた。

 落選したら収入がなくなる。在職しながら立候補ができないか会社に聞いてみた。1カ月経っても返事がない。「制度を作ってもらうまで戦うべきだ」「なし崩しで出たら追認されるのでは」と友人からアドバイスされたが、面倒になって、昨年12月、月末から有給消化に入ってそのまま退職すると申し出た。社内の人繰りで慰留され、今年1月末まで延びた。

 上司が職場でみんなにあいさつする機会を与えてくれて、その様子を録画してくれた。「頭を下げる動作がぺこぺこ小さくて短い。選挙運動の時は、もっと深くゆっくりしなければ」と反省した。

 政党の新年会で激励され、気分良く家に戻り、子どもがお世話になっている近所のおばさんにも立候補のことを言わねばと訪ねた。「あり得ない。小さな子どもが2人もいるのに。きっと、(子育ての上で)しっぺ返しが来るよ」。30分説教された。自分を思ってのことだとはわかりつつも、「世間の視線はこういうものか」と泣いた。

 九州に住む母親の手を借りたかった。「女性が社会に進出するようになったから世の中がおかしくなった。専業主婦は、3食昼寝付きだよ」と言うくらいの人だから連絡を取らなかったが、向こうから子どもの世話をしてもいいと連絡してきてくれて、ありがたかった。

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筆者

東野 真和

東野 真和(ひがしの・まさかず) 朝日新聞編集委員

1964年生まれ。社会部、政治部、編集センター、特別報道センターなどを経て、東日本大震災後に岩手県大槌町で3年間、熊本地震後に熊本県南阿蘇村で2年間、それぞれ民家に下宿。現在も震災復興・地方自治の編集委員として取材を続ける。著書に「駐在記者発 大槌町 震災からの365日」(岩波書店)、「理念なき復興」(明石書店)など。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです