悪化の一途をたどる日韓関係を好転させるヒントが元米大統領の訪韓にある
2019年05月23日
5月23日、韓国南東部にある烽下村をジョージ・w・ブッシュ元米大統領が訪れた。現職時代に同じ大統領として何度も顔を合わせた、故盧武鉉元韓国大統領の10周忌に出席するためだった。
韓国メディアによれば、ブッシュ氏は追悼式への出席に際し、自ら描いた盧氏の肖像画を持参した。23日午前に面会した文在寅大統領に対し、ブッシュ氏と盧氏の夫婦だけが出席した昼食会の思い出と友情について触れた。「盧氏と私の間には素晴らしい記憶が多い」とも語ったという。その後の追悼式では「追悼の席を共にできて光栄です。盧武鉉氏の肖像画を描きながら、人権に献身し、親切で温かだった盧氏のことを考えました」などと語った。
「なかなかできることではない」。盧武鉉政権時代、韓国大統領府で働いた知人は私にこう語った。確かに、ブッシュ政権と盧武鉉政権は衝突を繰り返した間柄だった。
盧武鉉氏が大統領選を争っていた2002年6月、韓国の女子中学生2人が米軍の装甲車にひかれて死亡した。反米世論が盛り上がったことも、02年12月の盧武鉉氏当選の一つの背景と言われた。
盧武鉉政権は、米韓同盟に頼りすぎない安全保障を目指す「自主国防」路線も掲げた。米政府関係者によれば、ブッシュ政権内では、盧政権が米韓同盟を重視しない考えなのではないかという疑いの目が広がっていた。
ただ、ブッシュ氏個人は、政治家としての盧武鉉氏に関心を持っていたという。米大統領を父親に持つ自分と比べ、盧武鉉氏は釜山商業高校を卒業した後、苦学して弁護士になり、政界に進出したという対照的な過去を持っていたからだ。
ブッシュ氏は盧武鉉氏の人となりを知りたいと考え、首脳会談の際、家族ぐるみの交際を重ねて求めたという。
ただ、盧氏には、米国と距離を置く政治的ポリシーや支持者との関係があったのだろう。終始、緊張した様子を崩さない場面が目立ったという。
あるとき、第三国で開かれた国際会議の際に行われた米韓朝食会談では、ブッシュ氏が気軽に「コーヒーにしますか?」と聞いても、「記者団にはどちらが先に受け答えしますか?」と声をかけても、盧武鉉氏は何を米国に訴えるべきかを考えているのか、終始難しい顔で、生返事を続けたという。
一方、盧氏の情熱が、ブッシュ氏の気持ちを揺さぶったこともあった。
あるとき、ランチを共にしながらの首脳会談の際、盧武鉉氏は原稿も読まず、北東アジアの情勢や未来について自分の言葉で語った。ブッシュ氏は感動した様子で話を聞いていたが、やがて口を開いた。それが「北朝鮮版マーシャルプラン」の話だった。当時の陪席者は「ブッシュ氏の発言は、盧武鉉大統領の熱意への評価だったように感じた」と振り返る。
盧武鉉氏は確かに米国と距離を置く政策を取ったが、半面、イラクへの韓国軍派遣や米韓自由貿易協定(FTA)の推進など、自らの支持勢力が嫌がる政策にも果敢に取り組んだ。ブッシュ政権も、全面的に盧武鉉政権に北朝鮮情報を開示することはなかったが、こうした姿勢も、ブッシュ氏が盧氏を個人的に評価する背景になったようだ。
文氏は盧氏と共通点も多い。文氏も盧氏と同じように苦学して司法の道に進んだ。釜山での弁護士仲間としての関係があったからこそ、盧武鉉氏は文在寅氏を政治の道に誘った。同じ進歩(革新)系だから、米国や日本に対して厳しい態度を示す方が支持者に受けるという背景もまた同じだ。
ただ、長く弱小政党の政治家として下積みをした盧氏に比べ、文氏はいきなり大統領府に入ったこともあり、政治家としての経験は不足している。談論風発を好んだ盧氏に比べ、文氏は静かな性格で他人との議論を好むスタイルでもない。
これが、文氏を巡る誤解を生んでいるようにも思う。
文氏と何度もサシで話したことがある知人によれば、文氏は礼儀正しく、ウソを言ったり、日本をだましたりする性格では決してない。弁護士だったから、たとえば徴用工や慰安婦問題で多少のこだわりはあるが、だからといって、「日韓関係を破壊してしまえ」というような過激思想の持ち主ではないという。
ただ、自分から熱心に自分の考えを売り込んだり、相手の主張に負けずに議論を続けたりするタイプではない。過去の日韓首脳会談では、安倍首相が延々と自分の主張を続けるなか、口を挟めずにイライラを募らせている様子だったと、韓国側の陪席者たちは証言している。
安倍氏が、ブッシュ氏と同じように首相を祖父に持つサラブレッドであることも、盧武鉉氏がかつてそうであったように、文氏が安倍氏になかなか心を開かない一つの原因になっていると証言する韓国の知人もいる。
一方、安倍首相も当初は、礼儀正しく振る舞う文氏に好感を持っていたようだ。周囲に、ろくに相手の目を見ないで話した朴槿恵前大統領と比較して、「なかなか良い人だ」と評価したこともあったという。
だが、日韓慰安婦合意の破棄や元徴用工訴訟判決など、韓国側の理不尽と言える政策が続くと、安倍氏の文氏に対する評価は「信用できない人物」に変わったという。
安倍氏の失望や怒りは十分理解できる。でも、お互いに会わなければ、相手に対する疑心暗鬼が募る。最近、会った日本政府関係者や政治家の間で、文氏に対する人物評価が余りに酷いことが、その証左ではないかと思う。
今、6月に大阪で開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議の際、日韓首脳会談が開かれるかどうかが、当面の焦点になっている。
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