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米軍基地が沖縄だけの問題でなくなった本当の理由

在日米軍統合運用の深化と航空機の飛行規制ができない日米地位協定で問題が全国に拡大

山本章子 琉球大学准教授

岩国基地の滑走路へ向かう空母艦載機=2019年4月4日、山口県岩国市

日本でもっとも騒音がひどい基地は?

 2018年3月、米海軍が使用する厚木飛行場(神奈川県)から、米海兵隊が管理し海軍と共同で使う岩国飛行場(山口県)へと、海軍空母艦載機61機の移駐が完了した。2006年に日米両政府が合意した、在日米軍再編の一環だ。

 岩国飛行場に所属する米軍航空機は約150機に増大。約100機が所属する米空軍嘉手納基地(沖縄県)と同等以上の、極東最大級の航空基地となる。それに伴い、2018年4月から1年間の岩国市尾津町の騒音測定回数は、移駐が始まる前の2016年度と比較して、2倍超の8668回にまで上昇した。

 他方、約50機が所属する海兵隊普天間飛行場(沖縄県)では、外来機の離着陸が激増している。防衛省沖縄防衛局の計測によれば、2017年の1年間で418回、2018年では1756回の離着陸を記録した。騒音の激しいF35Bステルス戦闘機、FA18D「スーパーホーネット」戦闘攻撃機を含む、岩国飛行場所属の航空機が訓練で飛来するのが理由だ。

 2019年1月には、普天間飛行場のひと月の外来機離着陸回数が、過去最多の378回を記録した。嘉手納基地の滑走路2本のうち北側の1本が、同月から補修工事で閉鎖され、嘉手納所属のMC130特殊作戦機、KC135空中給油機などの飛来も加わったためといわれる。

 さらに、北海道大学の松井利仁教授(環境衛生学)は2019年3月13日、嘉手納基地の騒音により、年に周辺住民10人が心臓疾患で死亡しているとの推計結果を発表した。高度の睡眠妨害をもたらす夜間騒音の影響を受けている周辺住民は、1万7454人にのぼるという。嘉手納基地では離着陸の騒音に加えて、停止状態の航空機が長時間発するエンジン調整音の被害も大きい。

 岩国飛行場、普天間飛行場、嘉手納基地。いずれの米軍基地でも航空機騒音が増大しているが、もっとも深刻なのはどの基地になるのだろうか。

騒音データ比較の予想外の結果

 そこで、2018年4月から2019年3月にかけて岩国飛行場、普天間飛行場、嘉手納基地の周辺で測定された航空機騒音を、「うるささ指数」であるLden(エルデン)で比較してみよう。

 岩国市が測定した岩国飛行場周辺5カ所の平均値を計算すると、年間平均は53.5Lden。また、沖縄県環境調査データをもとに、普天間周辺の測定局12カ所、嘉手納周辺の測定局15カ所で測定された速報値の平均値を計算したところ、普天間の年間平均は52.5Lden、嘉手納と53.2Lden。意外なことに、どの基地も年間平均値はほぼ変わらない。

 しかも、これら3つの米軍基地は、Ldenの月別平均値とその推移もおおむね一致している。2018年6月12日に実現した米朝首脳会談の影響で、同年8~9月の米韓合同軍事演習が中止になった折には数値がぐっと下がり、10月29日から11月8日にかけて実施された日米共同統合演習の期間には上がった。

【グラフ1】米軍航空機騒音測定結果(Lden)

【グラフ1】米軍航空機騒音測定結果(Lden)

深まる基地の統合運用

 この事実は、岩国・普天間・嘉手納の運用上の統合が進んでいることを意味する。米国はドナルド・トランプ政権になってから、北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の海洋進出に対抗して、アジア太平洋地域での航空・海洋攻撃能力を強化してきた。そのなかで、空軍と海軍・海兵隊の統合作戦が重視されているのだ。

 したがって、米海軍佐世保基地(長崎県)も統合運用に不可欠な存在となる。佐世保基地に現在配備されている強襲揚陸艦「ワスプ」に代わり、2019年中に新たに配備予定の大型強襲揚陸艦「アメリカ」は、ワスプよりも航空機用の格納庫などが充実している。岩国飛行場所属のF35Bや、MV22「オスプレイ」輸送機を艦載し、在沖米軍との一体的な運用を行う計画だとされる。

 明海大学の小谷哲男准教授(安全保障論)によれば、現在の米軍の作戦上のキーワードは「マルチドメインバトル(多次元戦闘)」。陸海空軍および海兵隊の4軍が、作戦ごとに部隊を分散させ、自律性を保ちながら、敵への一斉攻撃を行うというものだ。

 米軍各軍が導入を進めるF35型ステルス戦闘機は、通信ネットワークで各部隊が相互に他の戦況を把握できるようになっている。岩国・佐世保・嘉手納・普天間に所属する各米軍部隊は、有事を想定した日々の訓練を通じて、F35などの最新装備を使いこなし、運用の統合性を高めることを目指しているのだ。

 在日米軍と自衛隊との一体運用も進められている。陸上自衛隊は2018年3月、相浦駐屯地(長崎市佐世保市)に、離島防衛を主任務とする「水陸機動団」を発足した。水陸機動団は同年10月、フィリピンで米海兵隊、米海軍第7艦隊とともに訓練を行うなど、米軍との共同訓練を積み重ねている。

航空機騒音・事故を規制できない日米地位協定

 問題は、米軍が有事同様の訓練を行うのが、日常生活が営まれる市街地の上であることだ。

 日米地位協定には、米軍航空機の飛行に関する規定がない。協定の第2条は、日本政府が提供した施設・区域を米軍が使用すると定めるが、施設・区域の上空は提供範囲に含まれない。その外での米軍の活動も想定していない。

 米軍が日本領空を飛行する根拠とするのは、日米地位協定第5条第2項。航空機は「合衆国軍隊が使用している施設及び区域に出入し、これらのものの間を移動」できる、と書かれた一文だ。実際には、米軍航空機の「移動」は訓練の一環であり、米軍は訓練に必要だという理由で深夜早朝の離着陸や低空飛行を正当化している。

 しかし、日本政府は、米軍の飛行訓練が北朝鮮や中国に対する抑止力として重要だという考えから、飛行を規制しようとしない。むしろ、航空法などの国内関連法令を、在日米軍に適用しない特例を定めている。ただし例外的に、政治問題化した個別の米軍基地、厚木飛行場、横田基地(東京都)、嘉手納基地、普天間飛行場については、日米合同委員会で騒音軽減措置を取り決めている。

 だが、1996年に日米両政府が合意した、普天間飛行場と嘉手納基地の航空機騒音規制措置は、米軍航空機の深夜早朝・日曜の飛行自粛や最低高度などを定めてはいるが、米軍が運用上必要だと判断した場合を例外とするため、規制は存在しないに等しい。

 実際、「できる限り」学校、病院など人口密集地域の上空を避ける、という合意にもかかわらず、私の勤務先である琉球大学(付属小中学校も同じ敷地内にある)や、沖縄国際大学の上空を毎日、米軍航空機が通過しているのが実態だ。センター試験の英語のリスニング問題出題中に、米軍航空機が校舎の上を飛行し、受験生が音声を聞き取れないということも起きる。

 2004年8月13日には、普天間飛行場所属のCH53大型輸送ヘリが、イラク戦争の出撃訓練中に沖縄国際大学に墜落、学長などが執務を行う本館ビルに激突して爆発炎上する事故を起こした。事故後、日米両政府は、普天間飛行場周辺の人口密集地域上空の飛行を避けることに、あらためて合意。しかし2017年12月には、沖縄県宜野湾市の緑ヶ丘保育園と普天間第二小学校の真上で、普天間所属ヘリが部品を落下させた。緑ヶ丘保育園については、海兵隊は現在に至るまでその事実を認めていない。

 在日米軍の統合運用が進むと、沖縄以外の地域でも、同様の問題や事故は起きるだろう。

住宅街に囲まれた米軍普天間飛行場=2019年3月12日、沖縄県

SACOと在日米軍再編のまやかし

 普天間飛行場と嘉手納基地の騒音規制措置が取り決められた1996年には、日米両政府が「沖縄に関する特別行動委員会(SACO)」を開催した。SACOといえば、普天間飛行場の条件付き返還合意が有名だが、在沖米軍基地の整理・統合・縮小だけではなく、「騒音軽減イニシアティヴ」も成果に含まれている。

 その一つに、普天間飛行場所属の12機のKC130空中給油機の、岩国飛行場移転がある。だが、

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