米国の退役軍人省を参考に、退官した自衛官のサポートを強化すべきだ
2019年05月28日
この論考は、私の体験入隊を指導して下さった元一等陸尉永井政文氏と行った対談をもとに執筆しました。
二階派に入って4か月が経とうとしている。
その後の政局を見ても、外交安全保障の現実主義と内政のリベラリズムを両立するためにはこの道しかなかったと改めて感じている。自ら決断した道に迷いはない。
20年前、私が入党した当時の民主党には、羽田孜先生、渡部恒三先生ら保守二大政党を体現する幹部がおられ、静岡県内には熊谷弘先生という大物がおられた。若かった私は、ある大先輩に外交安保でイデオロギー対立が生じる懸念をぶつけたが、「二大政党の時代において、野党の政策は与党と8割同じで良い。ましてや外交安保は同じであることが望ましい」との答えが返ってきて、安心したものだ。今の野党にその面影はない。
国会以外、全ての時間、徹底して地元を歩く日々の中で、新たに見えてきた課題もある。その一つが自衛官のセカンドキャリアの問題だ。
任期付きの隊員と一部の幹部を除くと、自衛官の退職年齢は50代前半から半ばとなっており、他の公務員と比較して格段に早い。地元の陸上自衛隊の退職隊員の退職後のキャリアで多いのは警備関係の仕事だ。自衛官の仕事との親和性が高いのだが、現役時代と比較すると給与が大きく下がるケースが多い。
現職の自衛官には政治的な発言は認められていない。また、退職後の自衛官についても、私の知る限り、自らの待遇について積極的に発言する人は少ない。
しかし、地元を歩いていると、退職から年金支給まで10年、学生の子どもを持つ元自衛官の中から、生活の不安を漏らす声が聞こえてくる。
全米に143の病院、1241か所の診療所、300か所の退役軍人センター、56か所の地域オフィス、136か所の国立墓地を配置しているというから、そのスケールの大きさには驚かされる。全て税金で支払われる年金が用意されるなど、国のために命を張った軍人の一生をケアする体制が整っている。
元自衛官の知人から聞いたところ、アメリカに訓練に行くと、制服を着ているだけで空港のゲートを優先的に通してもらえるそうだ。軍人に敬意を表する姿勢は、教育現場を含め、社会全体に浸透している。
戦死者を多く抱え、世界でも最もリスクが高い軍隊である米軍は特別だという面はあろう。しかし、わが国の自衛隊も、テロ対策や災害派遣、海外派遣が増加するなど、以前と比較して格段にリスクは高まっている。
また、平成の時代に発生した阪神淡路大震災や東日本大震災などの災害派遣を通じて、国民の自衛隊に対する評価は大きく高まった。私は、米国の例を参考に、退職自衛官のセカンドキャリアについて見直すべき時期が来ていると思う。
自衛隊にも退職後の援護体制があり、関係する自衛官は懸命に業務に励んでいる。自衛官は退官する40代後半になると将来について考えるための1ヶ月ほどの教育期間があり、退職時には自衛隊内にある援護センターから仕事の紹介を受ける。ただ、援護センターが仕事を斡旋すると天下りとされるため、直接的な斡旋は禁じられている。
援護センターから情報を得て、直接、仕事を斡旋するのは一般社団法人である自衛隊援護協会だ。その人員は約80名。この人員で、年間数千人の退職自衛官の再就職の斡旋を行っているのだ。
自衛官は、「事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います」との宣誓をして入隊する。国民のためにその職責を全うした自衛官を再び一般社会に送り出す仕組みとして、あまりに貧弱だと私は思う。
もちろん、自衛官についても現役時代の仕事と直接的な利害関係を有する企業への天下りは制限されるべきだが、若くして再就職を強いられる自衛官の再就職を一般の公務員と同列に論じるのはおかしい。米国の退役軍人省を参考にして、自衛隊の援護センターの規模を拡大して、国が直接的に自衛官の再就職を援護する仕組みをつくるべきだと私は考えている。
少子化の進展で自衛官の募集は年々、難しくなってきている。
年間1万人を超える新隊員を確保しないと陸海空の自衛隊を維持できない。一年間に生まれる子どもの数は100万人を大きく下回っており、その半分は女性だ。女性の自衛官も増加はしているが、募集の大宗を男性が占めるのは実力組織である自衛隊の宿命だ。30人~40人に1人の男性が自衛官という数字を考えただけでも、募集の難しさが分かる。
援護の貧弱さ、すなわちセカンドキャリアの難しさは、自衛官の募集を更に難しくしている。長い人生をトータルに見て、自衛隊を選択する若者が減っているのだ。このままでは、わが国の最強の実力部隊である自衛隊が、やがて存続の危機を迎える可能性がある。
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