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「不条理」な欧州議会選挙。ヨーロッパはどこへ?

EU離脱交渉中の英国が選挙を実施、EU原構成国の仏伊では極右勢力が第1党

山口 昌子 在仏ジャーナリスト

欧州連合(EU)の欧州議会選挙について報じる朝日や日経の朝刊紙面

フランス、イタリアで「反EU」が第1党に

 5月23~26日実施の欧州議会選挙(比例代表制、定数751議席)ほど、アプシュルド(不条理)」という言葉が当てはまる現象はないのではないか。欧州連合(EU)離脱交渉中のイギリスが、閣僚理事会(EU首脳会議)と並ぶ2大立法機関の欧州議会選挙を実施したほか、EUの原構成国であるフランス、イタリアで「反EU=反欧州」の極右勢力が第1党を占め、「内なる敵」を形成する結果になったからだ。

 ローマ条約(1958年1月発効)に端を発するEUは今後、いったい何処に行くのか?

 フランスでは、各種世論調査の予測から、今回の選挙は2017年の大統領選で決勝戦を争ったマクロン大統領と極右政党・国民戦線(FN、当時)のルペン党首の一騎打ちの再現とメディアがはやし立てた。結果は、ルペン率いる国民連合(RN。FNが改名)の得票率が23.3%、大統領率いる共和国前進(REM)と中道右派・民主運動(MoDem)の連合体の得票率は22.4%で、大統領選とは反対に、ルペンが僅差で勝利した。

 ただ、フランスの持ち議席数(74議席)の配分率によって、議席数は両党とも23と同数。大統領は辛うじて面目を保ったかたちだ。

 イタリアも予測通り、EU離脱派のサルビーニ内相が率いるポピュリスト政党「同盟」が第1党を占めた。また、ハンガリーやオーストリアでも主権主義政党など極右が大躍進した。

 イギリスでは、この選挙のために急きょ創設された、「(離脱に関しての)協議なし」の強硬派の新党・離脱党が33.3%の得票率でトップを占めたが、親EUの自由民主党が20.3%の得票率で2位に滑り込み、同国で親EU派がかなりの数を占めていることを示唆した。辞任表明のメイ首相率いる保守党は得票率8.8%で5位に沈んだ。

「反欧州」勢力の躍進の要因は「反難民」

選挙結果が伝わり、笑顔で勝利宣言する仏国民連合のルペン党首=2019年5月26日、パリ

 「反欧州」勢力の躍進、勝利の最大の要因は「反難民」だ。

 1989年のベルリンの壁崩壊以来、冷戦中はソ連の威圧の下で閉じ込められていた中・東欧の少数民族問題や宗教の相違に起因するボスニア紛争やコソボ紛争が噴出。数百万の難民が西側の欧州に押し寄せた。この数年は、「イスラム国(IS)」のテロから逃れてきたアフリカや中東からの難民ラッシュも加わった。景気後退期のEU加盟国にとって、多数の難民受け入れは経済を圧迫し、社会的文化的摩擦も生んだ。

 こうした状況下で、「人道、人権尊重」という一種の「キレイごと」を標榜し、「難民受け入れ」に前向きな政府や政党への反感、反発が募っても不思議ではない。同時に、恥も外聞も理念もなく、「難民排除」、つまり一種の「人種差別」を堂々と宣言する極右政党やポピュリスト政党が支持を伸ばしても、これまた不思議はない。

 実際、ドイツのメルケル首相自身と首相が率いた右派、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の失墜の最大要因は、メルケルの「百万(実数約110万)の難民受け入れ」宣言だった。

絶大な人気の右派・サルビーニ内相

 イタリアのサルビーニ内相が絶大な人気を博したのも、本来は、「格好悪くて公言しにくい」はずの「反難民」の本音を堂々と主張し、鼓舞したからだ。サルビーニは今時、時代錯誤ともいえる「反離婚」「反中絶」「反同性愛」も声高に主張。3月末にはイタリア北西部べローナで開催された「世界家族大会」に出席し、「離婚や中絶、同性愛」という「反家族」的風潮を断罪した。

 同大会の主宰者はアメリカのカトリック団体の中でも、「最も中世的かつ教条的な団体」(伊週刊誌「レスプレッソ」)との評判がある宗教団体だ。べローナはご存じ、「ロミオとジュリエット」の舞台だが、「家族」という因習に抵抗し、死をもって愛を貫いた純愛物語などはどこ吹く風、サルビーニは「伝統的な家族愛」を説き、満員の聴衆から拍手喝采を浴びたのだ。

ミラノに集まったイタリアのサルビーニ内相(右から2人目)ら欧州の右派4党首=2019年4月8日
 サルビーニは年頭から精力的に選挙キャンペーンを開始し、イタリアの211の市町村を回った。キャンペーンやプライベートに、臆面もなく政府専用の特別機を利用したので、「背任横領」の容疑も取りざたされている。

 キャンペーンは国内にとどまらず、5月初頭にはハンガリーにも足を伸ばした。同国のオルバン首相は、EUが加盟国に求めた「難民受け入れ分担」に反対中だが、その首相と共に、ハンガリーとセルビアとの国境地帯を望遠鏡を片手に視察。シリアからセルビアを経由して入国してくる難民に悩まされている首相への支援を鮮明にした。オルバン首相率いる主権主義政党、市民連盟は、サルビーニ効果もあってか、今回の選挙で52.3%の記録的な高得票率で圧勝。首相の地位を盤石にした。

 5月18日には本拠地ミラノで、RNのルペン、オランダの自由党(PVV)のヘイト・ウィルダース、独の「ドイツのための選択肢(AfD)」のイエルク・モイテン、スロバキアの「われらは家族」のボリス・コラールら、「反EU」の代表者を一堂に結集して大決起大会を開催。「反EU」の存在をEUの内外に強烈にアピールした。

都市部では弱く、地方では強いRN

 サルビーニはルペンとは特に親しく、ハグ・シーンを含めたツーショット写真も何枚かある。昨秋から反マクロン政権デモを展開中の「黄色いベスト」の代表者の1人とも密かに会って支援を表明するなど、隣国フランスへの影響力は大きいといわれる。

 ただ、フランスは全国的にはRNがLRE―MoDemに僅差で勝利したが、首都パリを含む周辺7県のイル・ド・フランス地方ではLEM―MoDemが得票率27.25%でトップ、2位が親EUの環境政党、ヨーロッパエコロジー・緑の党(EELV)の15.88%でRNは3位の14.11%だ。

 パリ市ではLRM-MoCemが32.92%の断トツでEELVが2位の19.89%、3位は右派政党・共和党(LR)の10.19%、4位が社会党の8.16%、REは5位の7.22%だ。反マクロンとみられる移民や貧困層が多いパリ郊外でも同様の傾向が見られ、RNのトップは稀だ。

esfera/shutterstock.com
 RNは、ルペンの父親のジャン=マリ・ルペンが創設した国民戦線(FN)時代は、ナチのガス室は「歴史の些細な事件」と言ってはばからないゴリゴリの人種差別標榜の「極右政党」だった。娘のマリーヌ・ルペンは「極右」のイメージ払しょくに努め、大統領選後に党名も変更した。

 しかし、現実にはRNが「極右政党」であることに変わりはない。ミラノのサルビーニ主宰の集会に駆け付けたように、欧州議会ではイタリアの「同盟」やハンガリーの「市民連盟」などと並んで、「極右」に色分けされる。パリをはじめ都市部では、この辺の事情が知れているため、RN票が伸び悩んだとみられる。

 一方、地方では、「ブリュッセルの官僚主義が何もかも を決める」「種々の規定の80%はEU決定」「諸悪の根源はEU」といったRNの「反EU」のPRが浸透しているせいか、RNは票を伸ばしている。例えば、農家では家畜・家禽の飼育に関し、衛生上の観点から、飼育場の柵の幅や長さなど細部まで規定されているが、「机上の空論」「現場を知らないブリュッセルの役人に何がわかるか」と、農民の反発を招いている。

 しかし、EUの共通農業政策(CAP)の恩恵を最も受け、補助金の受給額が高いのは、実はフランスの農業だ。イギリスのEU離脱の理由のひとつには、フランスが「CAPの恩恵を受けすぎている」との不満が含まれている。批判が強い規定に関しても、「80%ではなくEUの決定は全体の約20%」(仏外務省筋)との反論もある。

極右・ポピュリスト政党は欧州をどうしたいのか

Victor Maschek/shutterstock.com
 それにしても、「反EU」「反欧州」を標榜するこれらの極右政党やポピュリスト政党は、欧州議会の「内なる敵」として、いったい、何をどうするつもりなのか。
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