中島岳志の「野党を読む」(2)玉木雄一郎
同郷の大平元首相を尊敬し、宏池会の穏健保守を掲げ国民民主党の代表になるが…
中島岳志 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授
選挙イベント『2019夏 与野党激突!』のお知らせ
夏の参院選が近づいてきました。安倍首相が衆院解散を断行し、衆参同日選挙になる可能性も指摘されています。「論座」は7月7日に選挙イベント『2019夏 与野党激突!』を開催します。
第一部『中島岳志(東工大教授)×保坂展人(世田谷区長) 野党はどう闘うべきか』(チケット申し込みはこちらから)、第二部『中島岳志×望月衣塑子(東京新聞記者) 安倍政権を再考する』(チケット申し込みはこちらから)です。イベントの詳細はこの記事の末尾にあります。
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国民民主党のCMで、戦国武将に扮する玉木雄一郎代表=同党提供
財務官僚から政界へ
議員生活10年、当選4回にして国民民主党の代表を務める玉木雄一郎さん。野党側のホープとして、注目されています。
2009年8月の衆議院選挙で民主党公認として初当選。民主党政権が瓦解し、野党に下ると、2016年には民進党代表選に立候補し、次世代のリーダーとしての認知度が上がりました。希望の党公認として挑んだ2017年の衆議院議員総選挙を経て、希望の党共同代表に選出。さらに2018年に国民民主党が結成されると、代表選挙で津村啓介さんを破り、党首になりました。
玉木さんは香川県の寒川町(現・さぬき市)出身で、実家は兼業農家でした。保育所、幼稚園、小学校はすべて1クラス。中学校で2クラスになり、初めてクラス替えを経験したと言います。「そんな田舎が自分の原点」と言い、地方の視点から農業をはじめとする政策を論じることを特徴としています。(小野寺五典 , 玉木雄一郎「対話 政治家の役割とは何か?」『公研』2017年4月号)。
東京大学法学部を卒業後、大蔵省に入省し、外務省への出向で中東での外交を経験します。金融企画局市場課課長補佐の時には証券取引法や金融先物取引法の改正に携わり、専門誌にいくつかの論文を発表しています。大阪国税局総務課長時代には「おもろいでっせ関西」という文章を雑誌『ファイナンス』に掲載し、関西人の「創意工夫」と「チャレンジ精神」が、これからの時代を切り拓くと述べています。
2002年から内閣府へ出向し、小泉内閣にて行政改革に携わります。ここでの経験が、玉木さんを政治家への道にいざなうことになります。
小泉政権では、いくつかの行政改革が進みましたが、次第に「違和感を覚えるようになった」と言います。
小泉改革も大事ですが、田舎には合わないなと。地方はどんどん人も減っていくし、寂れていくわけです。地方を元気にするためには、いろいろな仕組みを変えていかなければならないと考えたのが、政治を志す大きな理由の一つでした。(小野寺五典 , 玉木雄一郎「対話 政治家の役割とは何か?」『公研』2017年4月号)
玉木さんは自民党に代わるもう一つの受け皿が必要だと考えます。そして、2005年に財務省を退官し、同年の衆議院議員総選挙に民主党公認で香川2区から立候補します。しかし、あえなく落選。4年間の浪人生活を経て、2009年の政権交代選挙で当選しました。
政権をとってこそ
玉木さんは、政治の役割を次のように位置づけます。
私は役所で働いていたこともあって、政策を作るのは好きです。しかし、政策だけをやりたいなら役人をやっていければよかった。政治の役割はそれだけではありません。最近は白黒はっきりつける政治文化になりましたが、ただ、現実社会はどっちも正しい、あるいはどっちも間違っているというのがほとんどです。それをぜんぶ呑み込んだ上で、折り合いを付けていくことが政治の作業です。(「政治部記者が最注目するこの男を覚えておこう「次の総理候補」民主党玉木雄一郎って何者だ」『週刊ポスト』2015年8月21日号)
また、同じインタビュー記事で「自民党で出るなら官僚をずっと続けていました」とも言っています。とにかく政権交代可能な勢力をつくりたい。与野党が闊達な議論を交わしながら、合意形成がなされていくダイナミズムを生み出したい。そんな思いを強く打ち出しています。
そのため、現在の政治状況には強い不満をにじませています。安倍内閣は、野党と議論しようとせず、強引な議会運営を繰り返します。そこには引き裂かれることの苦悩や葛藤が見受けられず、政治の本来の役割が見失われています。
一方、野党にも歯がゆい思いを募らせています。民主党政権が崩壊した後の2014年には、与党の内閣改造の報道を受けて、「悔しい」と率直に述べています。野党であるため、ポストに就くことができず、政府の一員として働くことができない。こんなに悔しいことはない。だからこそ、必死で政権奪取の戦略を立てなければならない。権力への執着を持たなければならない。そう言います。
民主党に欠けていた(今も欠けている)のは、何が何でも政権を奪取し、そして維持しようとする気概だ。今回の内閣改造を見て、政権にいないことの悔しさがこみあげてこなければ、仮に再び政権に返り咲くことがあっても、また簡単に手放すことになるだろう。目指す政策を実現するためには、権力が必要だ。いい意味での権力に対する執着がなければ、それは政治ではない。いかに力を蓄え、政権交代可能な信頼できるもう一つの政治勢力を築き上げていけるかが今、問われている。(「悔しくないのか?私は悔しい。」2014年9月5日ブログ)