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中島岳志の「野党を読む」(2)玉木雄一郎

同郷の大平元首相を尊敬し、宏池会の穏健保守を掲げ国民民主党の代表になるが…

中島岳志 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授

同郷の大平正芳を尊敬

拡大衆参同日選挙で参院選が公示され、自民党本部前で行われた出陣式で、街頭演説に立った大平正芳首相=1980年5月30日、東京・永田町の自民党本部前
 玉木さんが尊敬する政治家として常にあげるのが、同じ香川県出身の大平正芳元首相です。

 大平さんは1960~70年代に田中角栄さんと盟友関係を結び、自民党宏池会を牽引した政治家です。大変な読書家であり、その深遠な思考から「田園都市構想」「環太平洋構想」などの大きなヴィジョンを打ち出すことのできた人物でした。その思想は保守に立脚しながらリベラル。常にバランス感覚を重視し、異なる立場の意見に耳を傾けました。

 玉木さんは、大平元首相の構想のなかに、今でも活用できる重要なものが含まれていると言います。新自由主義が跋扈し、都市と地方の対立が先鋭化した現代に対して、両者が「積極的に補完しあう」と位置づけた「田園都市国家構想」は、その意義を失っていないと言います。また「アメリカだけでなくアジア諸国との関係重視を唱えた「環太平洋連帯構想」は、ポスト小泉の中、政策の方向性を見出せないでいる日本の政治に、大きな示唆を与えるもの」だと述べています。(「「大平元総理を再考する会」を開催しました。」2009年3月22日ブログ)

 大平元首相の特徴は、ヴィジョンの確かさと共に、人望の厚さにありました。大平さんは多くのブレーンを抱え、的確な人材登用を行ったことでも知られています。人と丁寧に付き合い、粘り強い合意形成を信条としました。

 玉木さんは、そのような大平さんの姿から、政治を政策立案能力に還元する見方を退けます。政治家は政策に精通するだけではいけない。「手間のかかる根回しに厭わず汗をかける」ことこそが重要であり、「大平元総理の「讃岐顔」を見るたび」にそのような政治家になりたいと思うと述べています。(「大平元総理の人となり」2010年3月15日ブログ)

 玉木さんは言います。

 いまや穏健保守の宏池会(かつての大平派)はどこへいったのかという感じ。ですから穏健保守・リベラル保守を一つに結集して、かなり右に寄ってしまった自民に対抗する勢力にしたいんです。大平正芳さんの『楕円の哲学』という言葉をいつも頭に入れています。楕円は焦点が二つあって、ときに反発する、あるいは相容れない二つのものが調和しながら併存することできれいな楕円が描けるという。これこそ私が目指す政治の理想です。何事にもバランスだと思います。(『週刊ポスト』2005年8月21日号)

「リベラル保守」を掲げる

 玉木さんは2016年の民進党代表選挙出馬の時期から、「リベラル保守」という言葉を使って、自らの立場を打ち出しています。これは自由や寛容を重視しながら、この国の価値の連続性を保守するというスタンスで、大平さんを一つのモデルとしています。

 民進党代表選挙の際に受けたインタビューでは、「もう一度、民進党の立ち位置とは何かを明確にしたい」とした上で、明確に「『リベラル保守』と呼ぶポジションを取りたいと思う」と述べています。

 玉木さんが言う「リベラル保守」は、「認めあって協調することを守る考え方」であり、目指すのは「多様性を尊重し、抑圧や規制を加えるのではなく、のびのびと力を発揮できる環境を作ること」。偏狭で排他的な右派のように「中国がけしからん、韓国がけしからんといって敵ばかり作って攻撃するのは『保守』じゃない」。「人はそれぞれが違っているけど、一人一人が尊重される」べきであり、現在の自民党のような権威主義的な姿勢とは対極にあります。リベラル保守は「現実的で、穏健な保守」であり、「大平正芳元総理のような考え方を民進党の中心に据えたい」。そう言います。(BuzzFeed News 2016年9月10日)

 このような考え方は、希望の党に移行する際にも変わらず、むしろ「寛容な改革保守」を掲げた希望の党こそ自分の考え方に近いという立場を表明しています。

 私は従来から、多様性を重視する穏健な「リベラル保守」の結集を主張してきました。新党が掲げる「寛容な保守」は、この私の考えに近いものだと理解しています。また、保守二大政党制に向けた第一歩とも考えています。(「変わる政党、変わらぬ思い」2017年10月03日ブログ)

 希望の党は思想・理念の近い仲間が集まっている。だから、民主党・民進党時代よりも意思決定がスムーズで、バラバラという批判を受けることがない。万年野党をやるつもりはない。希望の党こそ、現実的に政権政党の核になれる集団だ。そう訴えました。(「今回、たまき雄一郎に投票しようか迷っている皆さんへ ~いま、たまきからお伝えしたいこと~」2017年10月21日ブログ)

 しかし、希望の党の結成は失敗に終わります。玉木さんは新党として国民民主党を立ち上げた際、チャレンジの失敗を認め、「反省」と「お詫び」を述べました。そして、改めて「改革中道政党」というポジションを明示し、現在に至っています。

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筆者

中島岳志

中島岳志(なかじま・たけし) 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授

1975年、大阪生まれ。大阪外国語大学でヒンディー語を専攻。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科でインド政治を研究し、2002年に『ヒンドゥー・ナショナリズム』(中公新書ラクレ)を出版。また、近代における日本とアジアの関わりを研究し、2005年『中村屋のボース』(白水社)を出版。大仏次郎論壇賞、アジア太平洋賞大賞を受賞する。学術博士(地域研究)。著書に『ナショナリズムと宗教』(春風社)、『パール判事』(白水社)、『秋葉原事件』(朝日新聞出版)、『「リベラル保守」宣言』(新潮社)、『血盟団事件』(文藝春秋)、『岩波茂雄』(岩波書店)、『アジア主義』(潮出版)、『下中彌三郎』(平凡社)、『親鸞と日本主義』(新潮選書)、『保守と立憲』(スタンドブックス)、『超国家主義』(筑摩書房)などがある。北海道大学大学院法学研究科准教授を経て、現在、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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