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「山本太郎現象」を読み解く

ポピュリズムは「民主主義とファシズムの坩堝」である

木下ちがや 政治学者

拡大街頭で、新たに立ち上げた政治団体「れいわ新選組」をアピールする山本太郎氏=2019年5月29日、東京・北千住

「山本太郎現象」の再来

 「山本太郎現象」という言葉がはじめて使われたのは、6年前の参議院選直後である。2013年7月26日朝日新聞朝刊1面に掲載された、前田直人編集委員(当時)の「丁寧に民意をすくいとれ」と題された記事の一節においてである。

 「山本氏は既成政党もマスメディアも原発についてものが言えなくなったと断じ、こう訴えた。
 「行動力のあるバカほどやっかいなものはない。日本で一番いやがられる国会議員になりたい。どうか、国会に送り出してください」
 山本氏は約66万7千票を獲得して4位で当選した。緑の党から比例区で立候補した音楽家の三宅洋平氏(35)との共同イベント「選挙フェス」や街頭活動の模様は若者の手によって、インターネット上に拡散。うねりを起こしたのは、放射能汚染への不安を募らせる生活者たちだ(…)安倍首相は演説の多くをアベノミクスにさき、原発論争には深入りしなかった。原発再稼働への反対票がバラバラの野党に分散しても、賛成票が政権側にくれば大勢には影響しない。政権にしてみれば、反対派を刺激しないよう注意すれば勝てる選挙だったのだ。
 嫌悪の対象にさえならなければいい。民意のメカニズムを熟知した安倍首相は慎重なかじとりで、「ねじれ解消」を実現した。
 とはいえ、それはあくまで選挙戦術の話である。安倍政権の方向性と民意のズレは変わらない。最近の世論調査では原発再稼働だけでなく、安倍政権が進めようとする憲法96条改正、判断の時期が迫る消費増税についても、反対が賛成を上回る傾向が続いている。
 昨年の衆院選、この6月の東京都議選、今回の参院選を通じて表れたのは、民主党を嫌う民意である。
 思い返せば、かつては自民党が同じような嫌悪の対象だった。安倍首相も辛酸をなめた。自民党をたたいた次は、民主党もたたく。往復ビンタのような民意の洗礼である。
 問題はこれからだ。「山本太郎現象」を生んだ民意は、安倍政権に答えを求め続けるだろう。往復ビンタは、いつ自民党に戻るかわからない。自民一強におごらず、民意の底を丁寧にすくいとるべきだ」。
(引用おわり)

 今年7月に予定される参議院議員選挙にむけて、ふたたび山本太郎が注目を集めつつある。

 タレントとして活躍していた山本は、3・11の複合震災後に反原発運動に飛び込み、2013年の参議院東京選挙区に無所属で出馬、泡沫候補との予想を覆して当選を果たした。以後、野党政治家として活動し、「天皇への直訴」や国会での牛歩戦術などのパフォーマンスで、たびたび話題をさらってきた。2014年には小沢一郎率いる「生活の党」に加わり、党人政治家として野党共闘にも尽力してきた。ところが2019年に入り生活の党の後継政党である自由党が国民民主党と合併することになった。ここで山本は党を離脱し、新党「れいわ新選組」を結成した。

 世論の反応は、党名からして「冗談」「いつものパフォーマンス」というものがおおよそだった。しかし同党は選挙募金を瞬く間に1億5千万円以上集め、山本が開催した集会には数百人が参加し、通りすがりの労働者がマイクを握るなど、熱気にあふれたシーンが展開されている。6年前に「反原発」の民意を受けて登場した山本は、次は「富と貧困」をめぐる怒れる民意を背に、勢力を拡大しようとしている。

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筆者

木下ちがや

木下ちがや(きのした・ちがや) 政治学者

1971年徳島県生まれ。一橋大学社会学研究科博士課程単位取得退学。博士(社会学)。現在、工学院大学非常勤講師、明治学院大学国際平和研究所研究員。著書に『「社会を変えよう」といわれたら」(大月書店)、『ポピュリズムと「民意」の政治学』(大月書店)、『国家と治安』(青土社)、訳書にD.グレーバー『デモクラシー・プロジェクト』(航思社)、N.チョムスキー『チョムスキーの「アナキズム論」』(明石書店)ほか。