花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授
在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
二大政党の凋落が続き、状況は流動化
5月23日から26日にかけ行われた欧州議会選挙は、一つの重要な変化を欧州政治にもたらした。中道勢力の後退である。それまで欧州議会では中道に位置する二大政党、キリスト教民主主義の欧州人民党(EPP)と社会民主主義の欧州社会・進歩同盟(S&D)が過半数を握り、両党が協調し政策を決めることでEU政治の安定を生んできた。今回の選挙により中道の二大政党は過半数を失い、他の親EU政党との協調を余儀なくされることになった。この「中道政党の後退」は、今の欧州における政治状況を表している。欧州議会選挙は欧州各国の国内政治が反映されたものだ。しかし、欧州議会選挙は単に各国の国内政治を反映しているだけでない。その結果は逆に各国の国内政治に影響していく。欧州議会選挙を受け、各国の政治が一斉に動き出した。その一つの「噴火口」がドイツである。
欧州議会選挙におけるドイツ二大政党の惨状は目を覆うばかりだ。キリスト教民主社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)が共に大きく敗退した。CDU/CSUはこれまで国内選挙で常に30%を超える得票を記録してきた。それが今回とうとう28.9%と30%に届かなかった。もっとひどいのがSPDだ。前回2014年の27.3%から今回、15.8%まで落ちた。
実は、SPDは国内選挙で既にジリ貧である。かつて40%を超える得票を誇り、ドイツ最古の政党として押しも押されもしないこの老舗政党が、このところ支持率低下を止めることができない。先の2017年選挙ではとうとう20.5%まで落ちた。選挙後、SPDは野に下るとし、政権から離れ党の再生を図ることとした。ところがCDU/CSUが行っていた連立交渉が頓挫し、SPDはこの方針を転換、再びCDU/CSUとの間に大連立をつくり政権入りした。しかし、既に大連立は賞味期限切れである。それにもかかわらず、CDU/CSUは他に選択肢がなかった、SPDも野に下ったからといって必ずしも展望が開けるわけでない。結局、「他に方法がない」との消極的理由で大連立がスタートした。それから1年余り。欧州議会選挙でドイツ国民は改めて両党に「ノー」を突きつけた。
6月2日、さしものSPD党首アンドレア・ナーレス氏は辞意を表明した。この数字を突きつけられてはもはや職にとどまることはできない。ナーレス氏は党員に当てたメールで「信頼と互いの敬意を取り戻してほしい」とし、自らの責任を認め党の再生を後任に託した。