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G20でも脚光。どうなるトランプ政権の中国外交

最終目標がはっきりしない「組み換え派」。日本が取り得る選択肢の幅は狭い

三浦瑠麗 国際政治学者・山猫総合研究所代表

大統領候補時代の外交演説にみるトランプの対中国観

拡大米通商代表部が中国への追加関税「第4弾」の詳細案を発表した日、ホワイトハウスで記者団に手を振るトランプ米大統領=2019年5月13日、ワシントン
 では、アメリカは中国のことをどのように捉えているのでしょうか。

 トランプ政権は、貿易交渉に際し、一方的な関税の発動という強硬手段を用いるという点で、過去の政権との違いが際立ちます。しかしながら、トランプ政権の「対中国観」自体は、歴代の米国政権と同様、多様な要素の組み合わせです。

 トランプ政権の対中観のスタートとして特筆すべきは、トランプ氏が大統領候補だった2016年の頃におこなった初の本格的な外交演説でしょう。当時、トランプ氏は共和党の大統領候補の座を事実上、手中にしていました。世界中の外交専門家のほとんどは民主党のヒラリー氏の当選を確実視していましたから、トランプ氏の外交演説がそれほど注目を集めたわけではありませんが、いま振り返ると、現在に至るトランプ政権の基本的な考え方がすでに明確になっています。

 この演説の最大の特徴は、アメリカに対する脅威として、「米国経済の相対的な競争力の低下」を重視している点です。アメリカの超大国の地位は、圧倒的な経済力という基盤があって初めて成立するものであるという見方を、正面から論じている。NAFTA(北米自由貿易協定)やTPP(環太平洋経済連携協定)についての懐疑的な姿勢も、経済的な競争力の観点で語られています。

 中国との関係も、最も重要なのは経済的な競争関係であると言い切っている。歴代政権のように、人権問題について指摘してみたり、軍事的脅威について言ってみたりという、ある意味腰の定まらない対応ではなく、本質は経済的な覇権にあると直截的に指摘しています。

トランプ政権の複合的な対中観

 その後、大統領選に勝利して発足したトランプ政権の対中国外交には、共和党内の中国への考え方が反映されます。

 まず、共和党内で主流だったのは、中国との経済関係を重視し、中国との関係を継続することで、中国が国際社会のルールを守るような存在へと導くという発想です。これは、基本的に歴代の共和党政権において、主流の考え方だと言っていい。ウォールストリート的というべきか、産業界寄りの発想です。

 おそらく、ゴールドマンサックス出身で、映画関連のファイナンス等でキャリアを築いたムニューチン財務長官は、この種の発想に近かったのではないかと思います。実際、対中交渉において財務省が弱腰すぎるというのが米政権内でも問題となっているようですから。

 共和党内におけるもうひとつの考え方は、共産党の一党独裁によって運営される中国に国際社会のルールを守るつもりはなく、短期的に守っているようなふりをしたとしても、それは方便に過ぎず、本質的にはアメリカの覇権を終わらせようとしている脅威であるという発想です。安保重視、覇権重視の考え方と言っていいと思います。対中強硬派として知られる、ナバロ大統領補佐官がこの陣営の典型的な存在でしょう。

 興味深いのは、トランプ政権が中国に対して強硬策を打ち出していくなかで、ペンス副大統領をはじめとする共和党の保守派が、こちらの発想へ近づきつつあることです。信教の自由等の人権問題が次第にクローズアップされつつあるのは、共和党の支持層の核心をなす福音派を、反中国の大義に動員するためでしょう。ここで、事態を深刻にする要素として「人種問題」が関わってきます。

 マーティン・ウォルフがファイナンシャル・タイムズ紙の論説で最近、指摘したように(日本語訳は6/7付の日経新聞に掲載)、トランプ政権の一部には、米中の競争を人種問題に結び付けようとする人々がいます。キロン・スキナー国務省政策企画局長が4月末に、「ニュー・アメリカ」というシンクタンクで、「白人国家でない大国と競う初めての経験となる」と述べています。日本人にとっては、戦間期の「黄禍論」を想起させる発言ですが、これは内向き化する米国保守に、とても親和性の高い考え方でもあります。


筆者

三浦瑠麗

三浦瑠麗(みうら・るり) 国際政治学者・山猫総合研究所代表

1980年神奈川県茅ケ崎市生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。専門は国際政治、比較政治。東京大学政策ビジョン研究センター講師などを経て現職。著書に『シビリアンの戦争―デモクラシーが攻撃的になるとき』(岩波書店)、『「トランプ時代」の新世界秩序』(潮新書)、『あなたに伝えたい政治の話』(文春新書)など。政治外交評論のブログ「山猫日記」を主宰。公式メールマガジン、三浦瑠麗の「自分で考えるための政治の話」をプレジデント社から発行中。共同通信「報道と読者」委員会第8期、9期委員、読売新聞読書委員。近著に『21世紀の戦争と平和 徴兵制はなぜ再び必要とされているのか』(新潮社)。

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