G20でも脚光。どうなるトランプ政権の中国外交
最終目標がはっきりしない「組み換え派」。日本が取り得る選択肢の幅は狭い
三浦瑠麗 国際政治学者・山猫総合研究所代表
はっきりしない「組み換え派」の目的
ただ、トランプ政権の中心的トーンは、上記の安保重視と人種的競争意識の組み合わせによる封じ込め論とも、雰囲気を異にしています。そのトーンは、経済至上主義の立場を取りつつも、先ほどの中国に改革を促す伝統的な立場よりも、もう少し荒っぽい。これは、グランドバーゲンを勝ち取ろうとする「組み換え派」として理解できます。
具体的に言えば、原理原則として中国とは仲良くやっていくという建前を崩さないものの、現実には経済的な不満を全面に出し、強硬な手段も交えながら、中国の妥協を引き出そうとするものです。
こうしたトランプ政権の発想の根本には、2016年の大統領選と政権1年目に大きな役割を発揮したバノン氏の影響があります。現在は政権を離れている同氏ですが、トランプ政権の関税を使った強硬策の目的は、中国を中心に出来上がったグローバルなサプライチェーンを組み替え、中国優位の経済をひっくり返すことにあると明言しています。
ツイッター等で発せられるコメントや、あらかじめ用意された演説ではなく、大統領個人の発想が色濃く反映されるインタビューなどを見ると、トランプ氏自身、バノン氏の発想に近いように思えます。ビジネスマン特有の短期的、経済的な利益を中心に考える発想でしょう。
とはいえ、「組み換え派」の評価が難しいのは、最終的な目的がどうもはっきりしないからです。一見すると、短期的な経済的メリットを得ることが目的で、目的が達成された後には広義のエンゲージメントに戻るように見える。換言すると、強硬策をぶち上げ、貿易黒字、国有企業の優遇、知的財産権等の重要テーマで中国に妥協を迫り、自分はこんな成果を挙げたと勝ちを宣言すれば、米中関係の大枠が元の鞘(さや)に収まり、中長期的に見れば戦略的な力関係への影響は軽微であるというパターンです。
考えてみれば、1980年代から90年代にかけての日米の関係は、これに近いものでした。最大の理由は、日本が安全保障を完全にアメリカに依存しており、妥協せざるを得なかったからです。これに対し中国は、日本と違って安全保障をアメリカに頼っていない。それゆえ、致命的な妥協は避けながら、このパターンへと落ち着くように動いています。
その一方で、「組み換え派」の本質は、やはり封じ込めであるという識者も存在します。ファーウェイをはじめとする中国のハイテク企業を、アメリカや西側の市場から排除しようという動きは、この発想と親和的があります。