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新たな「長征」を覚悟する習近平政権の国内事情

国民の中にある「王朝遺伝子」の発現と民間活力に翻弄され始めた共産主義国家の将来

酒井吉廣 中部大学経営情報学部教授

習政権が抱えるリスク

 しかし、習政権が心配しているのは、中国国民は、この事実を中国メディアの批判的な報道を通して知ったとしても、その背景にあるのは両国の価値観の違い(すなわち、共産主義と資本主義、社会主義と民主主義<特に、大統領のトランプをどんなに馬鹿にしても逮捕されない米国の自由さ>など)というものであり、中国もこれを機に米国側に加わった方が得なのではないかと考え始めるリスクである。

 国民からすれば、トランプ政権が中国をグローバル・サプライ・チェーンから外そうとしているなかで、片意地を張って突っ張ることよりも、アメリカの主張を受け入れた方が良いという判断も可能だからである。しかし、米国と違う風土でこれを受け入れることは、東欧やリビアなど、アメリカによる開放の流れが政権転覆にまで繫がるほど大きな変化をもたらしたという事実もある。

 先日、劉鶴副首相らが米国のライトハイザー補佐官達と準備した150ページに及ぶ合意内容を、100ページ程度まで削除した中国の官僚たちの行動は、単純な経済問題というよりも、イデオロギー的対立を背景にした色彩がある。ここで中国が折れることは、プライドが許さないとかいうものではなく、内部に敵を抱えることになり、習政権の存亡に影響するリスクがあるのだ。

 特に、この一年の報道の中で、習近平主席は表に出る機会が増えた。同時に、権力の集中とともに、いざという時には責任を取るという強いリーダーシップを示唆する記事も増えている。これは彼の強さを示すものである一方、これが失敗した暁には、その責任が集中することも示唆しているとも考えられ、ポスト習近平の動きになりかねないリスクを内包している。

 こうした状況下、習政権は、天安門事件から30周年の6月4日を前に、困難化した対米関係を正直に受け入れつつも、それに翻弄されることなく、これまでの国家発展の努力を続けるということを示したのである。

ファーウェイ問題はかく乱要因?

拡大華為の新型スマホ「P30」シリーズ。日本の携帯大手3社では発売延期や予約中止に追い込まれた=2019年5月21日、東京都目黒区
 日本の携帯各社が販売を中止・延期したファーウェイのP30はかなり質の高いスマホである。このところ販売が芳しくないiPhoneに追いつくためのチャンスであったのは間違いない。しかし、アメリカおよび米国企業による同社製品の購入中止、米国企業や同盟国・友好国の企業による同社への部品等の供給の中止、という強力な包囲網によって、それは風前の灯となってしまった。

 なかでも、グーグルによるアンドロイドの供給停止や、アーム社による半導体供給の停止は、同社にとって大きな痛手であろう。ただ、アーム社の半導体を実際に供給しているのは、アーム社の子会社が委託生産している台湾のTSMC社であり、ここは従来通りの供給を続けるとしている。

 中国にとってこの問題は、台湾には他にも部品を供給する会社が存在していることだ。中国は、台湾を中国・台湾省として自国の一部としてきたわけだが、ファーウェイの問題は、経済面で見ても、台湾を自国側につかせる必要があることを意味している。既述の魏国防大臣による台湾に関する発言は、ファーウェイ社のことも含んでいると見るべきである。

 一方、ファーウェイ社は、99%を社員株主が占め、融資の多くを中国国家開発銀行から受け入れて、中国内で生産を拡大してきた企業である。しかし、もしアメリカの指摘が間違いで、中国政府とは無関係の会社であるとすれば、同社には欧米の投資家や銀行からの資金を受け入れ、またアメリカに工場進出するという選択肢がある。

 ところが、これも中国にとって問題なのだ。仮にこれが現実のものとなると、中国国民は、習政権は国営企業でないファーウェイを守れなかった、と受け取る可能性がある。従って、中国は、通信覇権という問題とは別に、自国で頑張る民間企業のファーウェイ社を守らなければならないのである。また、中国の国内優先の発注を求める法律等の改正についても、アメリカが指摘するような国家資本主義の問題とは別に、同社の技術流出の可能性を防ぐという必要性も国の役割として出てくるため、この点でも安易にはアメリカの主張を飲むわけにはいかない。実際、中国は技術流出を防ぐための法整備を始めている。

 この間、王岐山副主席が訪問したドイツは、ファーウェイが研究所を設立する場所であるとともに、中国にとってはアメリカの同盟国でありながら、アヘン戦争時に唯一中国に大砲を売るなど支援してくれた国でもある。そのドイツがファーウェイ社や中国との関係を維持しようとしているのだから、中国としても、この関係を大切にしたいところだ。それゆえ、王岐山副主席を敢えて教育工作会議を休ませてまで訪独させたのだろう。

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筆者

酒井吉廣

酒井吉廣(さかい・よしひろ) 中部大学経営情報学部教授

1985年日本銀行入行。金融市場調節、大手行の海外拠点考査を担当の後、信用機構室調査役。2000年より米国野村証券シニア・エグゼクティブ・アドバイザー、日本政策投資銀行シニアエコノミスト。この間、2000年より米国AEI研究員、2002年よりCSIS非常勤研究員、2012年より青山学院大学院経済研究科講師、中国清華大学高級研究員。日米中の企業の顧問等も務める。ニューヨーク大学MBA、ボストン大学犯罪学修士。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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