有権者の「年金」に寄せる関心はこれまでとはケタ違いに
2019年06月15日
衆議院や参議院の国政選挙では、選挙戦中はもちろん、その前後でも頻繁に世論調査を実施する。
どこの党、どの候補に投票するか。そして、投票したか。私も長い間、そうした調査の結果に振り回されたが、かなり精度が高いことは認めざるを得ない。選挙戦の途中などで、「もう一歩」とでも書かれると、陣営の士気は一気に上がり、当選が視野に入ってくる。「独自の戦い」などと書かれたら、当選の可能性はないと決めつけられたことになる。
さて、そうした調査では、どの党、どの候補に入れるか、入れたかを訊くと同時に、なぜ入れるか、なぜ入れたかも訊く。いわば、投票する候補を決めた理由である。
それは、所属する党であったり、候補の人柄であったり、あるいは他の党の候補を落としたかったからであったり、理由はそれこそ千差万別だ。
さらに、メディアは政策を幾つか示して、投票先を決めるにあたって考慮した政策を、回答者に尋ねる。国政選挙の場合、一般に「景気」がトップか上位になることが多い。ただ、前回、2017年の衆院選では、「憲法・安全保障」に関心を寄せる人が、従来にも増して多かった。「集団的自衛権の行使」を容認する安保関連法を成立させたり、憲法改正に積極姿勢を見せたりする安倍晋三政権の性格や、衆院選前にブームをつくった小池百合子・東京都知事の同様のスタンスが影響したのだろう。
今回の参院選はどうだろう? これまで、投票先の理由として「景気」や「年金」をなんとなく意識していた有権者が、今回は迷うことなく、それらをもとに投票態度を決定する雲行きになっているように見える。特に「年金」については、例の「老後2千万円不足」の報告書によって、有権者の怒りに火が付きつつある。
「年金だけでは老後の資金を賄えず、95歳まで生きるには夫婦で2千万円の蓄えが必要」
「少子高齢化で年金の給付水準の調整が予想され、不足額はさらに拡大する」
なにも、野党や国民がそう言っているのではない。このことに全責任がある政府(金融庁)の報告書に、そう明記されているのである。
政府は警告を発したつもりなのだろう。しかし、国民は政府のこうした態度に、どこか他人事のような印象を持つ。そして、「こうなった責任は政府にある」と受け止める。少子化も高齢化も、何十年も前から予想されていた。経済が衰弱したのは、政府の経済運営が間違っていたことも大きな原因だと考えるのは、自然である。
それゆえ今回、世論が「年金」に寄せる関心は、これまでとはケタが違うのではないか。2007年の参院選前、第1次安倍政権でおきた「年金記録漏れ問題」とも異質である。なぜなら、一部の人たちではなく、ほとんどすべての人に、深刻な問題を提起したからだ。
問題はなぜ、こうした事態を招いたのか。政府の対応のどこが間違っていたのかという点だ。
報告書を将来への警告として、参院選を通じて議論を深めることは有益だ。その場合、今年に予定されている。公的年金の給付水準の見通しを示す財政検証も、必ず参院選前に公表する必要がある。財政検証の公表は5年に一度と義務づけられ、前回が2014年6月3日だから、もう公表されてもいい時期だ。これをもし、選挙後に先送りするというのなら、明らかな逃げである。
自民党は6月7日、参院選の公約を決定、発表した。驚くのは、通常は公約のトップの座を占める「経済」が、今回はその座を「外交」に譲ったことだ。
3月の景気動向指数が「悪化」を示したことはすでに書いたが(「衆参同日選の流れはどうなる!」参照)、4月もまた「悪化」を示した。ただ、精査すると「悪化」の度合いは改善されているようで、6月の月例経済報告も「緩やかな回復」とされるだろう。
ただ、国会の会期延長、衆参同日選、消費増税の先送りといった、不退転の決意を要する「荒事」は断念されたようだ。報道によると、参院選単独でも与党は勝てると見込んでのことだという。そうすると、大方の見るところ、秋の大嘗祭の後、11月頃の衆院解散・総選挙か。だが、その頃は消費増税の影響、中国経済の減速、さらに日米交渉の厳しい結果が重なって、景気は楽観を許されない状態に陥る可能性が高い。解散・総選挙は予想以上に無謀なものになるかもしれない。
こうした経済の流れは、政府も自民党も想定しているだろう。だから、参院選の公約で、経済よりも外交をトップに据えたのに違いない。
だが、肝心の対北朝鮮、対ロシアでは足踏みを続け、最近ではむしろ悪あがきとさえ見えることがある。
「在職が長いから、何か大きな成果をあげなければならない」と焦る必要はない。焦って拙速な手を打って、外交の筋を曲げていると誤解されれば、大きな悔いを後世に残すことになるであろう。「見せる外交」はほどほどにしてほしい。
おりしも、中東ホルムズ海峡付近のオマーン湾で、日本の海運会社が運航するタンカーが攻撃を受けたというニュースが飛び込んできた。日本とイランの首脳外交との関係性はまだはっきりしないが、首脳外交の危うさをあらためて認識させられる。
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