メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

中島岳志の「野党を読む」(3)山本太郎

2年前の「枝野幸男ブーム」と今の「山本太郎ブーム」。何が同じで何が違うのか

中島岳志 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授

拡大蓮池透さん(右)の擁立を発表する山本太郎氏=2019年5月31日、東京都新宿区

労働問題、そして経済問題へ

 山本さんは初当選の選挙戦で、原発問題を国民に問いました。しかし、有権者の反応はいまいちでした。そしてあることに気づきます。

 僕は選挙のときに原発のこと、被曝のこと、TPPのこと、そして労働問題についてお話ししてきましたが、聴衆のみなさんとの距離がぐっと縮まるのは、実は労働問題だということに気付いたんです。演説をしていても、立ち止まる人の数も反応も違う。演説が終わったらみなさんと握手をするんですけど、そのときに話かけられるのも、労働問題のことがいちばん多かったんです(「政党や団体を超えて不満がある人たちを集めたい」『Posse』2013年9月号)
 働く人間ひとりひとりにとって、労働環境が改善されていかなかったら、世の中に興味を持てないよな、っていうことに気が付いたわけです。朝から晩まで働いて、その後に社会のことを考えるって不可能だなって。2年間ずっと活動してきて、そういう部分に思いが至ったというか(「秘密保全法反対で全国キャラバン 全国各地を歩き回る それが僕流の「政治」だ」『創』2013年11月号)

 山本さんがたどり着いたのは「労働問題」でした。結局、原発事故の処理をする危険な労働は、下請け会社や派遣会社に丸投げで、しかもピンハネして安い賃金で働かされていました。

 この被曝労働は「過労死の問題にもつながって」いると考え、労働問題に話を展開すると、反原発運動には距離感を示していた人たちも、熱心に話に耳を傾けるようになりました。

 労働問題に力を入れていかなければならないと思った山本さんは、次第に経済問題に関心をもちます。

 その大きなきっかけとなったのは、2016年1月に出版された松尾匡さんの『この経済政策が民主主義を救う-安倍政権に勝てる対策』(大月書店)を読んだことでした。山本さんは言います。

 その本を読んで衝撃を受けました。要は安倍政権をどうやって倒すのかという時に、なくてはならないものがある。それは安倍さんを超える経済政策だと。(山本太郎、(取材・構成)雨宮処凛『僕にもできた!国会議員』筑摩書房、2019年)

 そして「松尾先生に「知恵をつけてください」とメール」し、2016年夏ごろから、松尾さんらとともに勉強会がはじまりました。

 この頃、山本さんは自民党の経団連中心主義を厳しく批判しています。安倍内閣は「国民のための政治」ではなく「企業のための政治」であり、その政策は経団連の提言を「完全コピー」している。結局、安倍内閣は大企業優遇のために法人税を減税し減税分を補てんするために消費税を上げようとしている。さらに「人件費の削減」のために外国人労働者の受け入れを進め、「世界的な低賃金競争に自国の人々を引きずり込」もうとしている。そして、TPPによって一部の利益を確保し、農家を苦しめようとしている。(「安倍政権は経団連の御用聞きか」『月刊日本』2016年10月)

 一連の問題を見ていると、安倍政権や経団連は「お前たちが生きることは許してやる、但し、余計なことは口に出すな、政治に興味を持つな」という本音が見て取れますよね。まるで王の様な振る舞いです。バカ殿ですかね?
 いくら子どもたちが貧困で苦しもうと、若者が借金まみれで家族を持つのは贅沢だと言われ、少子化も絶望的な状況の中でも「関係ない」とばかりに、税金を既得権益者にばらまき続けている(前掲「安倍政権は経団連の御用聞きか」)

 この主張を展開しているのが、保守色を特徴とする雑誌『月刊日本』であるというのも重要です。彼は次第に、自民党を支持してきた保守層を意識し、生活者としての連帯を呼びかけるようになっていきました。

消費税減税、財政出動

 では、具体的に経済政策をどのようにすべきか?

・・・ログインして読む
(残り:約1827文字/本文:約10723文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

中島岳志

中島岳志(なかじま・たけし) 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授

1975年、大阪生まれ。大阪外国語大学でヒンディー語を専攻。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科でインド政治を研究し、2002年に『ヒンドゥー・ナショナリズム』(中公新書ラクレ)を出版。また、近代における日本とアジアの関わりを研究し、2005年『中村屋のボース』(白水社)を出版。大仏次郎論壇賞、アジア太平洋賞大賞を受賞する。学術博士(地域研究)。著書に『ナショナリズムと宗教』(春風社)、『パール判事』(白水社)、『秋葉原事件』(朝日新聞出版)、『「リベラル保守」宣言』(新潮社)、『血盟団事件』(文藝春秋)、『岩波茂雄』(岩波書店)、『アジア主義』(潮出版)、『下中彌三郎』(平凡社)、『親鸞と日本主義』(新潮選書)、『保守と立憲』(スタンドブックス)、『超国家主義』(筑摩書房)などがある。北海道大学大学院法学研究科准教授を経て、現在、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

中島岳志の記事

もっと見る