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日本語で読んだ『82年生まれ、キム・ジヨン』

韓国のベストセラーが日本へ。母や姉、そして妻、娘もそのように生きてるんだ…

徐正敏 明治学院大学教授(宗教史)、キリスト教研究所所長

韓国の女性が夫の姓に変えないのは…

 ずっと前のことだが、女性の学者が多く参加した日韓関係国際シンポジウムでのこと、休憩時間に筆者を含め数人の研究者がテーブルを囲んでお茶を飲んでいたのだが、日本人女性の学者がこう言った。

 朝鮮時代が女性差別社会であったことはよく知られていますが、その頃はもちろんその後も、韓国の女性は結婚しても夫の姓に変えないですよね? その点では、韓国女性の方が近代以降の日本の女性よりも自立しているような気がします。日本では、最近になって結婚後も自分の「ファミリーネーム」を維持しようとする女性が増えています。夫の姓に変えた後、もし離婚した場合に、特に専門職で活躍する女性には困難なことが本当に多いんですよ。

 同席した日韓の学者たちはあるいは共感をあらわし、あるいはそれまで考えてもみなかった話題に興味を示したように見えた。

拡大『82年生まれキム・ジヨン』の韓国語版原本=Daum Bookより
 筆者はいつも考えていることを話した。韓国では、特に朝鮮時代の両班(ヤンバン:特権的支配階級)の女性は、結婚をしても決して夫の家系に入ることができない存在だった。一生をその家でおくり、子を産んで育てて、生涯を終えたとき「先塋」(ソンヨン)と呼ばれる家族の墓地に埋葬されるときには、結局自分の出身一族の姓を墓石に別途刻まれて埋葬されるのだ。

 ある妻が儒教的徳目にすぐれて忠実で、夫のため、あるいは義理の両親のために献身的犠牲心を発揮し、いわゆる「貞節」を守るために命を捧げたとしよう。そのとき国は「烈女」あるいは「孝婦」と彼女を讃え、顕彰の碑を建てたりもする。そしてその栄光はすべて夫の一族のものとなり、誇りとなる。

 しかし、ある妻が一般に「七去之悪」と呼ばれる、習慣や倫理に反する行為をしたときには、それは完全に出身一族のせいにされる。そしてしばしば彼女は、本家から追い出されることにもなるのだ。

 さらに筆者はこんな比喩を用いて説明を加えた。もちろん批判的な意図をにじませて語ったつもりである。――いちぶの男たちがいうように、女性を製品にたとえるなら、良い品物は購入した者の人徳であり、逆に欠陥や故障がある場合には、原産地やメーカーのせいにするようなものだ――と。いまでいうクーリングオフ制度もあったのだ、と皮肉った。

 茶飲み話に興じているだけのつもりだった学者たちは、朝鮮時代の女性差別の実態に思いをめぐらせている様子だった。

「男女七歳不同席」

 韓国の両班の伝統では、親子や兄弟姉妹ではない場合には、男女は七歳になると一緒に遊ぶことができないという慣習があった(日本にも同様の言葉がある)。

 さらには次のような話もある。朝鮮時代の韓国の女性は、一生のうちにただ三人の男性だけと正式に対面することができるというものである。生まれて会う父親が、はじめて心許して会うことができる男性である。そして結婚をする夫が二番目。さいごに息子を産めばその子が三番目に対面できる男性ということだ。もちろん極端な話ではあるが、当時の形式倫理としての女性抑圧の現実をよく物語っている。

 数年前、イスラム国家であるサウジアラビアで、女性が車の運転をすることができるようになったというニュースがあったことを記憶されているむきもあるだろう。また、イスラムの伝統が強い国々の女性の服装は、周知のように「ヒジャブ」(hijab)や「チャードル」(chador)、「ブルカ」(burqa)などがあり、それらは女性差別と抑圧を象徴する衣装とみなされている。

拡大朝鮮時代の女性の外出、チャンオッ、スゲチマなど=筆者の講義資料から

 しかし朝鮮時代の韓国の両班の女性も同じであった。彼女たちは「チャンオッ」と「スゲチマ」という衣装を着て外出をしなければならなかった。全身と顔を完全に覆って、昼間は避けて、闇が降りた頃にやっと外出が可能なのだった。「内外法」と呼ばれる規範が社会を支配していたのである。

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筆者

徐正敏

徐正敏(そ・じょんみん) 明治学院大学教授(宗教史)、キリスト教研究所所長

1956年韓国生まれ。韓国延世大学と大学院で修学。日本同志社大学博士学位取得。韓国延世大学と同大学院教授、同神科大学副学長、明治学院大学招聘教授、同客員教授を経て現職。アジア宗教史、日韓キリスト教史、日韓関係史専門。留学時代を含めて10年以上日本で生活しながら東アジアの宗教、文化、社会、政治、特に日韓関係を研究している。主なる和文著書は、『日韓キリスト教関係史研究』(日本キリスト教団出版局、2009)、『韓国キリスト教史概論』(かんよう出版、2012)、『日韓キリスト教関係史論選』(かんよう出版、2013)、『韓国カトリック史概論』(かんよう出版、2015)、『東アジアの平和と和解』(共著、関西学院大学出版会、2017)など、以外日韓語での著書50巻以上。

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