メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

新疆ウイグル自治区を『収容所群島』に変えた能吏

陳全国の人物像に迫る

柴田哲雄 愛知学院大学准教授

チベット自治区での施策

 陳全国がチベット自治区で政治的安定を実現するために行ってきた危機管理の施策を見ることにしましょう。それはムチを主としてアメを従とする方針に基づいていたと言えます。ムチについては、以下のようなことを行ってきました。第一に、派出所(便民警務站)の大幅な増設です。陳全国が2011年にチベット自治区のトップに就任してからたった1年の間に、区都のラサでは、500メートルに満たない間隔で派出所が林立するに至りました。第二に、警察関係者の大幅な増員です。陳全国がチベット自治区のトップに就任していた5年間に増員された総数は、その前の5年間に増員された総数の4倍以上に上りました。第三に、新たなテクノロジーを利用したハイテク監視の展開です。人工知能やビッグデータなどを駆使することで、監視カメラが自動的に顔認証を行い得るようになりました(Adrian Zenzほか)。

 一方、アメについては、習近平によって掲げられた「大衆路線」を通して、以下のようなことを行ってきました。陳全国は10万人に及ぶ幹部を、チベット族の各村落に派遣して駐在させることにしたのです。幹部たちは

・・・ログインして読む
(残り:約4086文字/本文:約7998文字)


筆者

柴田哲雄

柴田哲雄(しばた・てつお) 愛知学院大学准教授

1969年、名古屋市生まれ。中国留学を経て、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程単位取得退学。2002年以来、愛知学院大学教養部に奉職。博士(人間・環境学)を取得し、コロンビア大学東アジア研究所客員研究員を務める。主著に、汪兆銘政権とヴィシー政府を比較研究した『協力・抵抗・沈黙』(成文堂)。中国の亡命団体に関して初めて本格的に論じた『中国民主化・民族運動の現在』(集広舎)。習仲勲・習近平父子の生い立ちから現在に至るまでの思想形成を追究した『習近平の政治思想形成』(彩流社)。原発事故の被災地にゆかりのある「抵抗者」を発掘した『フクシマ・抵抗者たちの近現代史』(彩流社)。汪兆銘と胡耀邦の伝記を通して、中国の上からの民主化の試みと挫折について論じた『汪兆銘と胡耀邦』(彩流社)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

柴田哲雄の記事

もっと見る