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山本太郎・れいわ新選組が選挙で伸びる三つの根拠

左派ポピュリズムのど真ん中の政策。国民の間の「ルサンチマン」も後押し

米山隆一 衆議院議員・弁護士・医学博士

街頭の山本太郎氏。演説は聴衆の質問に答える形で進む=2019年5月29日、東京・北千住駅

比例代表で複数当選、政党要件の獲得も視野に

 自由党を離れた山本太郎氏が本年の4月1日、れいわ新選組をたちあげて2カ月半が経ちました。政党支持率の世論調査の対象になっておらず、マスコミ的な扱いはまだまだ小さいものですが、その独特な街頭宣伝のスタイルも相まって、SNSを中心に反響を広げつつあります。れいわ新選組が発表しているところでは、すでに1億9000万円の寄付を集めているとのことです。

 無駄に何回も国政選挙を経験したものとして私は、この「寄付額」というものは極めて重要なものだと思います。人は比較的気軽に「応援」はしてくれても、なかなか身銭を切ってはくれません。実感としていえば、寄付をしてくれるのは、支援者の100人に1人ぐらいの感覚で、逆に言うと身銭を切って寄附をしてくれるような「熱い」支援者は、自分の寄付を無駄にしないためにも周りを巻き込んで応援してくれるので、1人から寄付を得ることが出来たら、100人程度からの得票が得られるという感覚があります。

 「ざっくり」であることを承知で、この“計算”をれいわ新選組に当てはめると、寄附1件を3000円~1万円として2~6万件の寄付を集め、現時点で200~600万票を獲得しており、「100万票で1人当選」といわれる比例代表で複数人の当選者を得ることも、「全国比例で2%以上の得票(120万人程度)」を得て政党要件を獲得することも、視野に入っているものと思われるのです。

 予想にはまだ早いとは思いますが、私はきたるべき参院選において、大勢としては与党の勝利が動かないなかで、れいわ新選組が予想以上に伸長し、野党再編のカギとなると同時に今後、政界に波紋を投げかける存在となると考えています。以下その理由を述べたいと思います。

左派ポピュリズムのど真ん中の政策

 れいわ新選組のなによりの特徴は、その政策が「左派ポピュリズムど真ん中」であることです。

図1
図2

 ありがちで恐縮なのですが、政党を「国家志向-個人志向」「拡張財政志向-均衡財政志向」でわけた四分図で示すと、上記のようになると私は思っています(恐縮ながら社民党と共産党は除いています)。

 日本の政治における最大のプレーヤーである自民党が、「国家志向-拡張財政志向(公共事業型)」であるために、野党主流派(民主党系)はこれへの対抗軸として、「個人志向-均衡財政志向」でした。従前から、野党は福祉の拡充は訴えていましたが、それはあくまで「困っている人を救う」ための福祉・貧困対策です。野党主流派は自民党のばら撒きを批判してきた手前、自らはばらまきと言われるような政策を大っぴらに主張できなかったのです。

 従来の与野党の対立は、「清濁併せ呑む自民党(国家のために動き、財政を大きく使う)」と「清貧な野党(個人のために動き、必要以上に財政を使わない)」という「清貧度」軸にそったものであったと言えます(図1)。

 そのため、従来は図1の「左上」の部分、「個人志向-拡張財政志向」という本来であれば左派ポピュリズムど真ん中の位置が空いていたのですが、山本太郎・れいわ新選組は、まさしくこのど真ん中に位置するものだと言えます(図2)。

 勝手にそのエッセンスを抜き出すなら「福祉・貧困対策の枠組みを超えて、財政を通じて個人に富を分配しよう!」というものであり(最低賃金1500円、奨学金徳政令、1次産業所得補償はまさしくそう言う政策です)、自由主義社会における左派(中央集権・共産主義でない左派)政策そのものなのです。

 れいわ新選組の登場によって与野党の間に、新たに「分配方法」軸――すなわち、①国家のための分配を、財政によらず(企業・集団を通じて)行うか、②個人のための分配を、財政によって行うかの――という対立軸が生まれることになります(図2)

「平等・正義」は多数派を糾合する旗印になりづらい

記者会見をする山本太郎氏=2019年5月31日
 最近、政治関係者の皆さんと話す機会が増えているのですが、そのなかでれいわ新選組が話題に上ると、野党関係者の方々から「いや、俺たちもああいう主張をしたいんだ。でも政治家たるもの、分別のある主張をしなければいけないっていう縛りみたいなものがあって、出来ないんだよ」という反応を多く聞きます。

 立憲民主党を代表とする野党陣営は、上記の通りどうしても従来の「清貧度軸」に沿って「平等」「正義」を主張しがちです。とはいえ、いかに野党支持者とはいえ、人は自分に直接関係のない平等・正義にはそこまで強い関心を持ちません。そして、ある程度平等・正義が実現した社会において、不平等・不正義に曝(さら)されるのは少数派です(だからこそ問題になるのですが)。

 従って、平等・正義は極めて重要なものではあるのですが、すでに一定程度それが実現した社会においては、多数派を糾合する旗印には実のところなりづらいものなのです。

 これに対し、れいわ新選組が旗印に掲げる、福祉対策・貧困対策の枠を超える「財政を通じて個人に富を分配しよう!」という政策(最低賃金1500円、奨学金徳政令、1次産業所得補償等)は、過半数とは言わないまでも、相当数の人がその利益に預かれるもので、野党支持者の多くに訴求します。同時に、「分配」政策はもともと自民党的な政策という要素もあり、与党支持層にも相当程度に訴求しえるものです。

 極めて単純で身もふたもないといえばそれまでですが、れいわ新選組の掲げる左派ポピュリズムど真ん中の政策は、そのポピュリズム性ゆえに、与野党の枠を超えて多くの人に訴求しうると思われるのです。

れいわ新撰組を伸ばす「ルサンチマン」

政治団体「れいわ新選組」の立ち上げを表明する山本太郎氏=2019年4月10日、国会内
 政策論からいきなりレベルが下がるようで恐縮ですが、私がれいわ新選組が伸長すると思うもう一つの理由に、今の日本社会を覆う「ルサンチマン」の存在があります。

 選挙において政策が重要なのはもちろんですが、選挙もまた、人がやるものであり、「感情論」も極めて重要なファクターとなります。

 実際、自民党安倍総理は、6年経ったいまでも、「民主党政権時代という悪夢」発言を繰り返し、野党やマスコミからは批判されるものの、保守層からの支持はむしろ強めているのですが、これはどう見ても安倍総理個人と保守層のルサンチマンを、旧民主党系を「仮想的」として攻撃することではらすことが、自らの立ち位置を明確にし、支持を固める役割を果たしているからだと思われます。

 また、日本維新の会は、自民党以外のほぼ全方位を仮想敵としていますが、これも失礼ながら、創設者の橋下徹氏のルサンチマンと恐らくは大阪・関西人のルサンチマンを、野党を仮想敵としてはらすことによって、少なくとも関西での支持を保持する役割を果たしているものと思われます。

 世に存在する「ルサンチマン」は、上手にそれを掬い上げ、仮想敵を設定して鮮やかに溜飲を下げる事が出来れば、人をまとめる大きな武器となることは、日本政治の現状を見ても、アメリカの「トランプ現象」をみても、否定できない現実であると思われます。

「あなたに忖度」のキャッチコピーの狙い

 その観点から見ると、今日本を覆っている最大のルサンチマンは、率直に言って、「格差社会の中で、自分は負け組になってしまった」という「負け組ルサンチマン」でしょう。そして、この場合の仮想敵は、与党・野党と言った特定の政党ではなく、「現在いい思いをしている人」になります。

 山本太郎れいわ新選組の「あなたに忖度」のキャッチコピーは、ものの見事にこの負け組ルサンチマンのど真ん中をついています。負け組ルサンチマンを持つ人が心理の奥底で望む本当の本音は、お題目の様な「公平・公正」ではなく、いま「勝ち組」が不当に受けている「忖度」をはぎ取り、「勝ち組」に変わって自らが受けることなのです。

 おそらくは、意識的になされているこの「ルサンチマン戦略」を、山本太郎・れいわ新選組は今後さらに手を変え品を変えて展開すると思われます。これまた極めて単純で身もふたもないといえばそれまでですが、現在の日本に蔓延する現状に対するルサンチマンを見事に掬い上げることによって、れいわ新選組は、野党支持者のみならず、現状に不満のある与党支持者にもその支持を広げる可能性は、相当程度に高いものと私は思います。

山本太郎氏の政治家としての資質

初当選を決めてた山本太郎氏=2013年7月21日、東京都杉並区
 最後の一点は、ありきたりなのかもしれませんが、山本太郎さんの政治家としての資質です。

 私は知事選の時から山本太郎さんに応援演説をしていただき、縁浅からぬものがあります。演説を聞く前は、失礼ながら「いわゆる芸能人」という思いもあったのですが、初めて演説を聞いたその瞬間から、

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